24.神じゃない

正面に回り、刀に手を置き小屋の中へと入る。金目の物だらけだ。なるほどね、こりゃけっこう稼いでいたみたいだな。


「…この中か…な?」

気配がするのは奥の物置?のような場所からだった。


「お?」

「「「!」」」


子供が1,2,3人。手足を縛られて口も縛られている。嗚呼もしかして明日にでも売り飛ばされる予定だった子だろうか。安心しな売り手はもう死んだよ。


「君たち大丈夫?」

「お、お兄ちゃん、だ、だ、誰」


ぐへぇ!お兄ちゃんとな!失礼だぞお前ら!

あぁそうかこれ男物の服だったわまじうっかり。


「あぁー…通りすがりの者だよ。えっと、君たちは、誘拐されて」

「た、助けてください!」
「私たち、は、母上の元に帰りたい!」
「売り飛ばされたくない!助けて!助けてよぉ!」


よしよし大丈夫だよとぎゅっとして頭を撫でてあげる。この子達の気持ちは痛いほどに解る。親元を離れ誰だか知らぬ人間のところに売り飛ばされるだなんて、恐怖以外の何者でもない。私も首輪をはめられ檻に入れられたときは、舌を噛み切ろうかと思ったほどだった。


「大丈夫。君たちを攫った悪ぅいおっさんたちはおね、…お兄ちゃんがやっつけたから」
「ほ、本当?」
「うん、君たちを町まで連れていってあげるよ」


とは、言ったものの、子供三人。足を縛られていて腕も縛られていて、きっとろくに飯も食えていなかったんだろう。ふらふらした手足で近寄ってきたということは、山道なんて歩けもしないはずだ。

運ぶしかないな。

三人まとめて運ぶには、あれしか手は無い。

話を聞くと、多分この山を下ったところにある町だと思うと言った。多分庄ちゃんたちが攫われかけた町のことだろう。


「じゃぁねぇ、ちょっとここで待っててくれる?」


そういい小屋から出て行こうとすると

「お、お兄ちゃん行かないで!」
「おいていかないで!」
「私たちを助けて!!」

「だ、大丈夫だから!置いてかない置いてかない!」

ガシリと着物の裾をつかまれた。危ないよ!転ぶところだったじゃないか!っていうか君たち可愛いよ!置いていくわけないじゃん!

使いものを寄越すから、それが来たら背中に乗りなさいな、と頭を優しく撫でて小屋を出る。



「土井先生、先にあの首を持って忍術学園に戻っていてください。あの子達を町まで送り届けます」


気づいていたのか。そう言って土井先生は気の上から降りてきた。


「虎の姿にでもなる気かい?」
「えぇ、そうでもしないとまとめて運べませんし。あの子たちにバレる前に急ぎ、お願いいたします」

「…」
「…何か?」

「……虎の姿を、もう一度見せてもらってからじゃ、だ、ダメかな………」

「…今度山の中で学級委員のみんなを乗せると約束しました。その時にご一緒してくださいな」
「あ、ありがとう!じゃぁ先に戻っているから、必ず帰ってきなさいね」
「はい、解りました」


土井先生子供みたいだな。虎の姿なんていくらでも見せてあげられるのに。

土井先生の気配も消え、ぶわりと虎に姿をかえる。そのまま小屋の中へ入ると、あの子達は小さく悲鳴を上げた。だが私に攻撃する意思なんて無い。

虎になると体つきがよくなるのが問題だ。子供じゃよじ登らないと無理なほどに大きくなってしまう。


「……さっきのお兄ちゃんの、ともだち?」


そう呟く男の子の頬を舐め、身体を屈めた。理解してくれたようで、皆私の背中に急いで乗った。ふわふわだ!と喜ぶ子たち可愛い。このまま連れ去りたい。

ゆっくりと小屋を出て、振り落とされない程度に、私は山道を下った。

今夜の月はちょっと欠けていた。
















町は静まり返っている。やはりこんな夜中ではどんな賑やかな町でも静かになるのか。おうちは何処だろうと子供たちに視線を送ると「ぼ、僕の家あっち!」と指をさしてくれた。ありがたい。このままの姿でも喋れることは喋れるが、声でバレたら終わりだ。

ここが家だという男の子は足に怪我をしている。降りることは出来ないだろう。
そのまま扉をドンドン叩く。よく聞くと、家の中からすすり泣く声が聞こえた。この子の両親だろうか。この子を心配しているのだろうか。大丈夫ですよー。今連れて帰りましたからねー。

「ど、どなた…」

小さい声で、ゆっくりと扉が開かれた。

「ひ、ヒィ!」


そりゃ驚きますよね扉の向こうにこんなでかい虎がいたら。あ、獲って食おうなんて思ってないんで安心してください。


「母ちゃん!」
「た、太郎ちゃん…?太郎ちゃんなの!?」
「何!?太郎が帰ってきたのか!?」

背中にいる子が声を上げると、母親らしきこの人と、家の中に居た男の人、多分。パパさん。が、背中にいる子を引き下ろした。そうか太郎くんというのか。可愛い可愛い。よかったね。家に帰ってこれて。

他の二人もこの家の人の知り合いの子なのか、名前を呼んで背中から下ろし、抱きしめて泣いていた。うううう感動の再会だ泣いちゃう。

さて送り届けたし忍術学園に帰ろう。そう思い身体を翻したとき、





「お、お待ちください神様!あり、ありがとうございました!」
「白虎様!貴方は、あの山の守り神様でしょうか!」
「ありがとうございます…!ありがとうございます!!」
「うちの子たちを助けてくださって、誠にありがとうございます!」




神様ーーーーー!?!?!?!?
海賊から神様に突然ランクアップしたーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!


子供も一緒に親御さんまで私に向かって土下座をしてきた。いやまじ気にせんといてくださいとでも言うように私はご両親の顔に擦り寄り、猛ダッシュで山へ戻った。山道通って学園に帰ろう。もうこうなったら山の神様だと思わせておこう。うん、そうしよう。
















「あのね、母ちゃん、あとね、知らないお兄ちゃんが山賊を倒してくれたって…」

「その人が、か、神様なの?」
「解んない。でもあの虎さんを呼んだのはそのお兄ちゃんだと思う」
「…不思議なことも、あるもんだな………」

















山の麓からは人の姿で学園への道を急いだ。学園からは物音一つ聞こえない。そりゃそうか。もうすぐ夜明けかってぐらいの時間だもんね。皆寝てるか。

「あ、土井先生」
「香織さん!遅かったではないですか!」
「そうですか?」
「血も付いてます。六年の早起き組みが起きる前にお風呂に入ってください!」
「はーい」

学園の門をくぐると、土井先生が待機しててくれた。

やはり思ったとおり、土井先生は私の殺しっぷりを学園長先生に報告してくれたようだ。用心棒をするには腕が確かだと判断してくださった学園長先生は私を正式にここで雇うと言ってくれたらしい。あら嬉しい。香織ちゃん一生懸命働いちゃう。

着替えの寝間着を手渡してくれて、私は風呂場へ入った。



「…香織さん、」
「はい?」

寝間着を棚に置き、今来ている着物は処分すると言うので土井先生は脱衣が終わる私を外で待つと言った。そして扉を閉めようとすると、







「貴方は、人の命をなんだと思っているんですか?」









少しツラそうに、そう問いかけてきたのだった。


「どうしてあんな何の迷いもなく、人の首をはねられるのですか?どうしてあそこまで、冷静に命を奪えるのですか?」


きっと人攫いという悪党を相手にしていたとはいえ、なんの躊躇いもなく、あの二人を殺した私の姿が信じられなかったのだろう。







「…?奪ってしまえば、1つも2つも変わりませんよ?もう、何個奪ったかも覚えていませんから」


何を当然なことを聞いてくるのだろうか。

服を脱ぎたいので出て行ってください。と身体を押し、土井先生を部屋の外へ追いやった。








うおおおおおお風呂だ風呂だ湯気たってる今日は誰にも邪魔されずに一人で風呂だ!

うぇぇぇんいつもみたいに乱入してくる男どもがいないだなんて!
汗臭い男どもの背中流せとか言われなくて済むだなんて!



天国みたい!













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「おや土井先生、遅かったのう」
「…」
「それが、首か」
「…」
「どうじゃった、彼女は」



「……鬼を、見ているようでした…」



「…なるほどのう……」
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