18.話が解らぬ

「かいぞ、く?香織さんは海賊さんなんですか」
「うん。私は海賊だよ」

どうやら香織さんはくのいちではなく、海賊だという。よかった、これで六年生の生徒達の疑いははれそうだ。

「じゃぁ、この辺にいるということは、兵庫水軍の方ですか?」

ここらで海賊といえば兵庫第三協栄丸さんの水軍だろうか。香織さんを今まであそこで見たことがない。そういえばこの間うちの学園で身隠しの盾の役のオーディションをやった白南風丸くんも第三協栄丸さんの側近ではないから会ったことがないと言っていた。香織さんもそうだったのだろうか。


「…ひょうごすいぐん、海賊団、ですか?」
「え?」
「水軍……?あ、ここもしかしてワノ国ですか?」
「はい?」
「なんだどうりで和風な建物だと思った。ワノ国に流れ着いていたのですね。よかったここから船まで遠くないかもしれない…」
「あの、」
「あ、その、私は白ひげ海賊団の者です。白ひげ海賊団の一番隊戦闘員の香織です」

一応これでもそこそこ高い懸賞金かかってるんですけど…。そういいながら少し落ち込んだような姿を見せる香織さん。

しろひげかいぞくだん。なんだそれは。


「白ひげ、海賊団?」
「えぇ。四皇の。あ!あぁ!べ、別に私この島に攻め入りに来たわけじゃなくて!私、ただ戦闘でやらかして海に転落してそれで漂流しただけですから、心配はしないでください!」

「ちょ、ちょっと待ってください!あなた、兵庫水軍の方じゃないんですか?」
「え、えぇ。そのような名前の海賊団ではありません」

スパッと言い切る香織さん。
先ほどから喋る彼女の言葉を理解できたものは、この部屋に何人いるのだろうか。

否、いないだろう。


「あ、むしろ電伝虫をお貸ししていただけませんか?呼べば多分パパたち船で迎えに来てくれると思うので、」
「でんでん虫?」
「えぇ。でんでん虫。ありますでしょう?」

「…かたつむり、の、ことでしょうか…?」

「……いやあの、電、伝、虫、です…」

「……それは、………かたつむり、の、ことでは…」


「…」

「…」


会話が、途切れる。

先ほどから、まったく会話が噛み合っていないような気がしてならない。

彼女はしろひげ海賊団という海賊であるという。兵庫水軍ではない。というか、彼女の口から「私は水軍です」という言葉が出てこない。
そして何故かかたつむりを寄越せと言ってきた。何故このタイミングでかたつむりが必要になるんだ。


「……私は、悪魔の実の能力者です」
「…」
「…私が今、何を言ったか、意味が、わかりますでしょうか」
「……いいえ、なにも…」
「…!?」

私がそう返事をした瞬間、布団から飛び跳ね保健室の襖をいい音を立てて開ける外を見る。



「海匂いが、全然しない…」

そう小さく呟くと、彼女はグルリと体勢を変え、私の元へ詰め寄ってきた。庄左ヱ門が「土井先生!?」と声を上げるが、私は胸倉をつかまれ、興奮したように彼女は問いかける。




「此処はなんと言う島ですか!?」
「こ、ここは、島………し、島?」

「!?…ここは一体何処ですか!?」
「こ、ここは忍術学園です!忍者の卵たちが忍者について学ぶところです!」

「わ、ワノ国ではないのですか!?」
「わわ、あなた方の仰られるわのくに、ではない、と思います!」

「ワノ国じゃない…!? で、では、悪魔の実を知っていますか…!?」
「な、何でしょうそれは、えっと、木の実、ですか」

「冗談ですよね…!?悪魔の実ぐらいご存知のはずでしょう!?」
「いえ!我々は聞いたこともありません!」

「んなっ、…! 海軍は!この近くの海軍は第何支部ですか!?」
「かい、ぐん…?」

「………ゴール・D・ロジャーという伝説の男を、知っていますか…!?」
「………南蛮の、方、でしょうか」



そこまで間を空けず質問攻めにしていた香織さんは、私の胸元から手を離し、膝から崩れ落ちるように、目の前に座り込んだ。


きっと、庄左ヱ門も彦四郎も鉢屋も尾浜も、誰も全ての質問に、彼女の満足するような回答はできないだろうと思った。この私ですら、何を言っているのか解っていないのだ。




そして、最後の力を振り絞るように、香織さんは問う。













「…今は、大、海賊時代、ですよね………?」










私は、首を横に振った。

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