16.銃口と謝罪

「動くな。私の質問にだけ答えろ」
「…まだ起き上がらないほうがいいですよ。傷が塞がってない場所もあります」
「私の質問にだけ答えろと言っている」

ゴリッと背中に銃口が押される。刺激はしない方がいいかもしれない。きっと3日眠っていたから今の状態が理解できていないだけだ。殺気は感じない。きっと混乱しているだけ。


「貴女は僕の大切な後輩二人を助けてくれた。僕は貴女に敵意はありません」

そう言えば、背後の気配は少し動揺した。僕を敵だとでも思っていたのだろうか。


「…後輩、二人?あの男の子二人か…?」
「そうだよ。黒木庄左ヱ門と今福彦四郎。彼等をここまで運んでくださったのは貴女なのでしょう?」

なだめるように、決して強くは喋らない。

二人の名前を出せば、銃口は背中からはずされた。僕はそのまま振り返る。動いている香織さんが目に入る。よかった。まだ完全ではないけれど回復はしているみたいだね。

まだ立ち上がるには早い。きっと血も足りてなくてふらふらすることだろう。

僕はこれから摘む予定だった薬草を入れる用の籠を置き、香織さんを布団へ運んだ。
軽い。やはり血を流しすぎたのだろう。何か食べさせないと。


「大丈夫です。ここにいる人は貴女へ感謝しています。あの二人は僕にとっても、この学園にとっても大切な子達だった。僕から先にお礼を言わせてください。

本当に、ありがとうございました」


「あ、いや、頭を上げてください。…私は、彼等に会わなければきっとあのまま死んでいました。私も助けられた。彼等に礼を言わねば…。それから、」
「はい?」


「こんな死にかけの私を治療してくださったというのに、私は貴方に銃を向けてしまった。混乱していたとはいえ、本当に、申し訳ありませんでした」

彼女は痛みに顔を歪めながら、その場に手を付き頭を下げた。

「や、やめてください!傷に響きます!」
「いえ、これぐらいどうということはありません。本当に、ありがとうございます。そして、すいませんでした」
「気にしないでください!普通の人ならそういう反応しますって。さぁ、もう顔を上げて。もう一度寝てください。」

きっと傷が開いたであろう。一度包帯を外してもう一度薬を塗る。
起きている女性の身体を触るのは少々てれくさいが、そうもいってられない。包帯に少し血が滲んでいる。やっぱり開いちゃったか。


「申し遅れました。僕は善法寺伊作と言います」
「あ、私は、香織と申します…」
「えぇ、あの二人から聞きました」

「あの、この着替えは…」
「あぁ、今此処にはいないのでが、別に人間が。すいません、突然のことだったので対応したのは男だったのですが…」
「……そう、ですか」

「それから身に着けていたものは、もうお気づきかと思いますが、枕元に。着ていた服も一度洗って繕っておきましたので」
「…何から何まで、すいません」
「いえ、目を覚まされてよかった。」

腕の包帯を巻き終え、結ぶ。やはり薬が足りないな。新しく薬草を取って来たほうがよさそうだ。


「あの、そういえば、あの少年達は」
「庄左ヱ門と彦四郎ですか?彦四郎は無傷でしたよ。庄左衛門は脚を捻ったのに無理して走ったらしく、腫れてしまいましたが、今はもう二足歩行に支障はありません」
「そう、ですか」


本当に良かった。そう呟くと彼女は深く息を吐き、再び眠りに付いた。

次に来るときは何か食べ物を持ってこなければ。













「授業中失礼致します。六年は組善法寺伊作です」
「伊作か?どうした?」

「庄左ヱ門はいますか?」
「あ、はい!」

「喜べ庄左ヱ門。先ほど香織さんが目覚めたよ」
「ほ、本当ですか!?」


僕がそういえば、は組の皆の表情も明るくなった。もちろん土井先生も。
全員が心配していたのだろうか。このクラスは本当に心優しい子たちばっかりだな。

皆が口々に「よかったねー!」「早くお話したいねー!」と手を取り喜んでいる。


「うん、今また眠ったけど、二人の心配をしていた。後で一緒におにぎりでも届けに行こうか?」
「はい!」
「授業が終わったらでいいから、彦四郎にも伝えておいてくれるかい?」
「解りました!ありがとうございます!」

庄左ヱ門の目には涙がたまっていた。
うん、本当に良かったね。



あんな可愛い子達に心配されて、香織さんも幸せだろうな。

早くお話させてあげたい。
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