13.敵じゃない

そのあとからは早かった。


ハチによって呼び戻された六年生と五年生が保健室に駆け込み、
庄左ヱ門と彦四郎の無事を確認し喜んだ。

「無事でよかった」
「心配かけやがって」


そう声をかけられ、二人は申し訳ないように頭を下げる。

「細かいことは気にするな!」

その七松先輩の言葉に、二人は笑顔を見せた。



ふと、

ついたての向こうで三反田と川西、そして新野先生が慌しく薬棚をあさり誰かを治療しているのが目に入った。


ついたての向こうで治療をされているのは見たことのない女性。治療中ということで裸に近い姿で止血をされ薬を塗られている姿を見て、

六年生も五年生も目を見開いた。

まさか、血まみれ怪我だらけのこの細い女性が彦四郎と庄左衛門を送り届けたのかと信じられない様子だった。



さらに皆を驚かせたのは、彼女の枕元に散乱する銃の数だった。

短く小さく軽い、見たことはない形のもの。だが、構造は大体火縄銃のようなものだった。


小さいものから大きいものまで。治療が出来ないと新野先生と土井先生二人がかりで取り外したらしい。

背に大きい物を。両足に小さい銃をいくつもくっつけていたらしい。



そして今彦四郎が抱えている刀もその女性のものだという。



一体何者なのか。それは二人もわからないと言う。



治療は保険委員に任せて私たち学級委員(庄左ヱ門は保健室で治療が必要なので置いていく)、そして六年生、五年の皆、そして山田先生と土井先生で学級委員会会議室に移動した。



彦四郎はそこで今日あった全てを話してくれた。




買い物の帰りに庄左ヱ門を待っていた彦四郎が人攫いに誘拐されかけたこと。
その庄左衛門も狙われていた。

そいつらのアジトのような場所はわからない。


逃げているうちに庄左ヱ門が負傷し、

樹の根でやすもうとしたら見つかり、

連れて行かれそうになったその時、

樹の裏からあの女性、「香織さん」が現れ、

彦四郎がいまだ持っている刀で一人を殺したらしい。



よく見ると血が付着していた。



そして、抱えてここまで走って連れてきてくれたと。



忍術学園の場所は彦四郎が案内したらしい。


本当は虎の姿で来たのだろうが、
さっき私たちが秘密だと言ったので、抱えてと表現したのだろう。






そこまでを思い出して、彦四郎はまた泣きそうになった。

勘ちゃんが彦四郎を抱っこして背中をさすってあげる。




「なるほどな、あの女性は香織さんと言うのか」
「仙蔵、お前はどう分析する」


「…はじめは間者の可能性があると大いに疑った。お前たちも見ただろう、あの見たことのない銃の数。おそらく南蛮の最新の火縄銃か何かだろう。
あれだけでも十分我々に害が及ぶ存在だと判断できる。

しかし、身に着けていたあの武器はどう考えてもくノ一の持つような物、量ではない。
そして脱がされてはいたが、服も、露出度が高すぎてとても忍び向きではない。

あの大量の銃、そしてあの細さ。性別は女性。

どう考えても同業者という方向に結びつけるほうが難しい。
私は彼女を、白と見る。」



そこまで一気に話すと、立花先輩はふと顔を上げ、食満先輩の方を見る。



「……俺も、白だと思う。

あの怪我。あの出血。どう考えても余計な動きをすれば死ぬことは確実だ。
忍術学園の場所を探るために彦四郎たちに近づいたんだとしたら、あまりにもリスクが高すぎる。
もしくノ一ならば、身体に傷なんてつけたくないはずだ。そこまでして忍術学園の場所を暴くようなやつには見えなかった。」


まぁ、勘だがな。と、食満先輩は頭をかく。



「私もあいつは敵ではないと思う!庄左衛門と彦四郎を送ってくれたんだから、いいやつだ!な、長次!」
「……もそ…」



六年生の言葉に、残されていた五年生も全員頷く。
どうやら彼女を疑っているのは、






「俺は黒だと思うがな」



潮江先輩だけだった。



「間者である可能性は捨てられない」
「ほう、文次郎。貴様の意見は私たちと反するというのか」


「お前たちにそう思わせるよう、あのような格好をしているという可能性もあるだろう。
それがあいつの狙いだったらどうするんだ」


「とてもそうには見えんがな」
「気を失っている女を一目見ただけでそこまで判断できるのか」
「貴様はあと一歩動けば死ぬだろうという状態でも任務をこなせるか」
「忍びならそれが当然だろう」
「貴様ならそう考えるだろう。だが、あの人は女だ。女性の心は我々が考えるよりはるかに脆い。死ぬ間際ならまず自分の命を第一に考えるだろう」
「ハッ、あれがくノ一なら任務をまっとうするだろうよ」
「…ハァ、だから貴様は女心がわかっていないとくノ一教室から定評があるんだ」
「なんだと仙蔵テメェ!」
「事実をのべたまでだ」




「やめてください二人とも!!」




六年生二人の喧嘩を止めたのは、
勘ちゃんの腕の中にいる彦四郎だった。




「お二人がどう思われようと、先輩方がどう思われようと、ぼ、!僕は香織さんを間者だとは思えません!!
きっと庄左ヱ門もそう思ってます!!

あの人は自分の命が消えそうなのに、僕等を、僕等をここまで連れてきてくれたんです!!!
あの人は凄く優しい人なんです!!!

それなのに!!それなのに…!!


間者なわけないじゃないですか!!!

僕だって、ぼ、僕だって忍者の卵です!まだ一年生だけど、人を見る目くらいあります!!香織さんは、香織さんは、絶対間者なんかじゃありません!!!」


そこまで叫ぶと、彦四郎はもう一度勘右衛門の胸に顔をうめ、泣き出した。

勘右衛門は彦四郎の頭をなで、立ち上がる。


「彦四郎、一緒にお風呂に入って何か食べて寝ようか。お腹減ってるか?」
「…(フルフル)」
「じゃぁ風呂に入って今日はもう休もうか。兵助、悪いな。先に部屋に帰ってる」
「あぁ、わかった」

そう言い残し部屋を出た。




勘右衛門が出て行って、入れ違いで入ってきた善法寺先輩が来た。

「留さんはいるかい?」
「どうした伊作。治療はすんだのか」
「うん。止血は終わって、薬も塗り終わった。今新野先生が包帯を巻いてるところなんだけど…。」
「なんかあったのか?」



「留さん、鍵とかはずせる?」
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