12.後輩と虎と

土井先生は俺たちと一緒に学級委員会会議室で待機。
山田先生は一年生が庄左ヱ門と彦四郎について疑問を持ち始めたら対処してくださると一年長屋付近で待機しているらしい。

土井先生は学級委員会会議室についてから、
最近町で子供を中心とした人攫いが発生しているという情報が入っているという話しをした。

俺と三郎は顔を真っ青にしてその話を聞いた。



「先日六年生の一部がその町へ実習で潜伏していた。きっとその情報も耳にしているだろうから、あいつらならそのことも考え動いてくれるさ。」








六年の先輩方と五年生で捜索が開始されてから半刻が過ぎた。



未だに誰からも連絡は来ない。



何故。何故上級生がここまで探しているのに
一つも情報が入ってこないんだ。

庄左ヱ門と彦四郎はどこに行ったんだ。


「…土井先生、私も捜索に行ってきます」

もう待っているだけなんて無理だ。
俺は万力鎖を手に取り部屋を出た。


「待て尾浜、お前と鉢屋はここであいつらを待つんだ」
「ですが!ここまで待って何の連絡もないだなんて!あいつら、絶対人攫いにあったとしか考えられません!」
「落ち着け勘ちゃん!先輩たちが探してくれているだろ!」

「俺だって探しに行きたい!じっとしてなんていられないよ!!

こんなことになったのは、俺のせいだ!
俺が、あいつらに買い物を任せてしまったから…!!」



菓子なんて俺が自分で町に行けばよかった。

本当に、あいつらが人攫いなんかにあっていたらどうしよう。




部屋から外へ出ると、小雨が降り始めていた。

二人は傘なんて持っていかなかった。


もし、迷子になってたら、風邪を引いてしまう。

もし人攫いなんかに襲われていたら…!!







―……ガアアァアアア









「……今のは…」
「おそらく獣の鳴き声だろう。熊か、狼か…」

そうか、山に入れば獣もいる。夜行性ならばは行動する時間だ。

そいつらに襲われる可能性もある。


あぁどうしようどうしようどうしようどうしよう







最悪の事態を想像し始めると、


ずっと奥の壁の方、きっとあれは五年長屋の塀の方だ。
そっちの方向から何か物音が聞こえた。

こんなときに侵入者だろうか。




「忍術学園だ…」
「帰って、来られたんだ…!!」

「「やったぁあーー!!!」」












この声、……もしかして…!!




「庄、左ヱ門…!?庄左ヱ門なのか!?」
「彦四郎!!彦四郎!!!」

「鉢屋先輩!!」
「尾浜先輩!!」



俺たちの元に走ってくるのは泥だらけで傷だらけの
愛しい愛しい後輩たちだった。


「よかった…!!本当に良かった…!!!」
「ぶわあぁぁああ!!庄ちゃんんんん!!!!」
「鉢屋先輩鼻水つけないでください!」
「庄左ヱ門たら冷静だね!!」


感動の再会。

よかった、二人が無事で本当に良かった。



「痛ッ!」
「庄ちゃん……!?脚を怪我したのか!?」
「捻ってしまいまして…」


「庄左ヱ門も彦四郎も、こんな時間まで何処に行っていたんだ!!!」



四人とも肩をすくめる。

こんなに怒鳴る土井先生を久しぶりに見た。
きっと、それほどまでにこの二人が心配だったのだろう。



返事を返そうと彦四郎が口を開いたその時、
二人が走ってきた方向からドサリ、と何かが倒れた音が聞こえた。


「っ、侵入者か、こんな時に」


「ッ、庄左ヱ門!香織さんが!!」
「香織さん!?香織さん!!!」

彦四郎が「香織さん」という名前呼び、元居た場所に走っていく。
庄左ヱ門は脚を怪我している様子なので三郎が抱っこしながら彦四郎の方向へ急いだ。



行った先にいたものに、俺たちと土井先生は、目を疑った。






「なんだこれ…」

「嘘だろ…」

「どういうことなんだ…」








ソレは、本でしか見たことのない生き物。

真っ白い、虎だった。








しかしその毛並みはドロと血と傷だらけで今は汚れきっている。


「尾浜先輩!鉢屋先輩!土井先生!お願いします!香織さんを助けてください!!」
「背中に刀が刺さっていて、それでいなくても何発も撃たれているんです!!」
「ボロボロなのに、僕等をここまで送り届けてくださったんです!!」
「香織さんを助けてください!!」
「お願いします!!お願いします!!!」


彦四郎と庄左ヱ門が必死に叫ぶ。

状況がまるで理解できない。

この虎が、二人を助けた?

この虎が、ここまで送り届けた?




「香織さんは虎じゃなくて!!!」
「本当は人間なんですけど!!」
「でも僕等を人攫いから救ってくださって!!」
「見ず知らずの人なのに、助けてくれたんです!!」




やっぱり人攫いにあっていたのか。




いやしかし待て、これが元は人間で?

人攫いから二人を救って?


なんなんだこの状況は。
二人が嘘をついているようにはまるで思えない。

その涙も嘘ではないだろう。


だが俺も三郎も横たわる虎から視線をはずせない。





「「先輩!!」」





「っ!勘右衛門!大至急八左ェ門の所に行って現状報告!狼でも鷹でもなんでもいいからそいつら使って先輩方を学園に呼び戻せ!!
できるだけ早く善法寺先輩を呼び戻すように伝えろ!!」
「わ、わかった!」

「土井先生、先生は山田先生と新野先生に現状報告を!先に保健室に庄左ヱ門を運んでおいてください。その足はさすがに放ってのは危険です」
「任せておきなさい!おいで庄左衛門」
「すいません、お願いします…」

「彦四郎、もう少し頑張れるか」
「は、はい!僕は大丈夫です!」
「三年は組の三反田数馬と二年い組の川西左近を連れてこい。乱太郎は呼ぶな。1年生は山田先生が押さえてる。今余計な心配はかけなくていい。」
「了解です!」

「鉢屋はどうする」
「……この虎を保健室に運びます。……虎ならハチに任せます。………本当に人間なら、新野先生と保健委員に…」



でかい獣。
さすがに腕で持ち上げることはできないだろう。
肩に担ぐようにすればいいだろう。



…首輪がついているということは、飼われているのだろうか。





それにしても息が小刻みで早い。

こいつはもうすぐ死ぬのかもしれない。







とりあえずこの刀に毒が塗ってあったら、死を早めるだけだ。
本当はこういう場合抜かないほうがいいのだが、持ちにくいという理由とさらに食い込んだらまずい。

これは抜いたほうがいいと判断した俺は背に刺さる小刀を抜いた。


「ッ、」
「!」





刀を抜いた瞬間、虎から小さく人声が漏れた。



そして、







尾は消え、耳も消え、



虎だった姿は、人間にかわった。






「さ、三郎…!」
「鉢屋……!」




「尾浜先輩、鉢屋先輩。」
「これが…香織さんの本当の姿です」





「………さっきの私の命令は全て忘れろ。

戦に巻き込まれたであろう死にかけ女性が、二人を送り届けてくれた。そう、全員に伝えるんだ。



いいかお前等、そして土井先生」














今見たことは、全て私たちだけの秘密だ。
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