11.先輩も協力

「遅くに失礼します、中在家長次先輩はいらっしゃいますでしょうか」

六年長屋の部屋、中在家先輩の部屋の前に座り声をかける。


「その声は不和雷蔵か?」
「……その声は、立花先輩ですか?」

「………もそ」


すっと開くと部屋の中には酒瓶を囲んで六年生が集合していた。
これなら酒盛りだったのだろうか。悪いタイミングで来てしまった。


「よう!これから酒盛りなんだ!お前も飲んでいくか?」
「い、いえ七松先輩、結構です」
「すまない不和。長次に用事なら俺たちは席をはずした方がいいか?」
「いえ、先輩方が集まっているのなら皆さんに頼み事がありまして」
「………言ってみろ」

「本日の昼過ぎから町にお使いにでかけた一年は組の黒木庄左ヱ門、それから一年い組の今福彦四郎の行方がわからなくなっています」


さっ、と、部屋の空気が変わる。

寝転がっていた七松先輩も起き上がって此方に視線を向けた。



「今、竹谷八左ェ門と久々知兵助が町へ行くための道、それからその脇の山道を捜索中です。尾浜勘衛門は土井先生と山田先生に現状を報告しに。鉢屋三郎は学級委員会会議室で二人の帰りを待ってます」

「二人は、」
「三郎の話では、恐らく買い物だけの予定故に、丸腰ではと」

「そろそろ一雨来る。時間は限られてくるぞ」
「二人の捜索に協力していただけませんでしょうか…!」


いまだ廊下にいる私は床に手を着き頭を下げた。
これから悪天候になるかもしれない、しかももう日も落ちたというのに
先輩方を危険な目に合わすかもしれないのだ。

もしかしたら、了承してくれないかもしれない。



「俺と伊作は裏山へ行ってみよう」
「うん、トラップはこの間撤去したし、今日は大丈夫だと思う!」
「食満先輩…!善法寺先輩!ありがとうございます!」

「………もそ………もそ…」
「そうだな!私と長次は裏々山を捜索してみる」
「中在家先輩、七松先輩、ありがとうございます!」


中在家先輩と七松先輩が立ち上がったとき、
「待て、」と潮江先輩が二人の動きを止めた。



「待て、小平太、長次。お前らは町の周辺を捜索してこい」


「何故だ文次郎!!私たちは裏々山を探すんだ!」

「少し落ち着けバカタレ!町へ行ったのだろう?裏山ならまだしも裏々山まで行ったとは考えられない。」

神崎や次屋じゃあるまいし、と潮江先輩はため息をつく。
確かにそうだ。


「…先日実習中に、町で最近人攫いが多発しているという話を耳にした」
「なんだって!?」


部屋の空気が、さらに低くなる。


「子供ばかりを狙った人攫いらしい。それにその団子屋だが、俺の記憶が正しければその店は町の外れにあったはずだ。
最悪そこでその人攫いに襲われとなれば、あそこは大通りから死角になる。すぐ町を出て山に入れる。
もしもの話だが、もし人攫いの手にかかっているのならその町の周辺の山の中に潜んでいる可能性が高いということだ」


さすが六年生、というしかない。
この短時間の間に、そこまで深く考え、過去に聞いた話を思い出すだなんて。

先輩方に相談していなければ、多分僕等も裏々山まで捜索していたかもしれない。


「そうだな、文次郎の言う通りだ。行く途中で竹谷と久々知に遭遇したら町の回りを捜索すると、それから二人が見つかったらすぐに鳥でも狼でも何でもいいから我々に連絡をするよう、伝えていけ」

「わかった!長次行こう!」
「…まかせておけ……」
「宜しくお願いします!」



いけいけどんどーーん!!

そう叫びながら二人は姿を消した。



「留三郎と伊作はそんなに山奥深く探さなくてもいいだろう。近場を捜索しろ」

「わかった!任せて!」
「仙蔵と文次郎はどうするんだ」

「私と文次郎は、もしものことを考えドクタケ城とタソガレドキ城周辺を探ってみる」
「俺はタソガレドキへ行こう一人で十分だ」
「ならば私はドクタケへ行こう。不和、ついてこい」
「わ、わかりました」



一旦学級委員会会議室に寄り、
六年生も捜索に協力してくれたと三郎に伝えに行った。

戻ってきた勘右衛門が泣きそうな顔をしていて、
三郎が勘右衛門を慰めていた。
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