9.背中に乗る

「っ…!!」
「お姉さん!?」
「大丈夫ですか!?」

「ごめん、ちょっと止まるよ…!!」


まずいな、本当に血を流しすぎた。背も痛い。
ふらふらする。次にダッシュなんかしたらまじで気ぶっとぶかもしれん。


「ちょっと、休憩させて…!」

「あの、その、助けてくださって…!!」
「その、僕達…!」

「いいよ、一旦、落ち着きな、…多分もう、大丈夫、だから、」


どっちがどっちだかわかんないけど片方の子の頭を撫でて涙を指でぬぐってあげる。


「僕、黒木庄左ヱ門と言います!」
「僕は今福彦四郎と言います!」
「「本当に、ありがとうございます!」」

涙をぬぐってあげた方が黒木くん。覚えた。
それでこっちの子が今福くんね。

「私は……香織…。」
「香織、さん、ですね」
「香織さん、顔、真っ青ですけど…」

「はは、気にしないで……っ、!ゲッホ、!ガハッ!!」

「お姉さん!?」


まずいな、死ぬかもしれん。



「大丈夫大丈夫、ちょっと撃たれた、だけ…」
「ちょっとどころじゃないですよ!?」
「戦に巻き込まれたんですか!?」
「まぁそうっちゃ、そう、なんだ、けど、……シッ!」


ガサガサと草が踏み潰されていく音。そして、



「くっそ、あのガキども何処に行きやがった!」
「そう遠くはないはずです!」



聞こえてくる声。

二人の口を両手でふさいだ。


あぁもう私達が見つかるのも時間の問題かもしれない。



こうなったらもう、走るしかない。




「二人とも、乗馬の、経験、は、ある?」
「一応、僕はあります」
「僕は…」
「じゃぁ黒木くん、私の背に乗って」
「えっ、…香織さん!?これ!!」

黒木くんが驚くのも無理はない。刀が刺さりっぱなしの背を向けられたんだから、
しかし刺さっているのは左肩の下。言わば肩甲骨辺り。

おぶるのにはなんの問題もない。

「か、刀が!!」
「良いから早く!!今福くんは黒木くんにしっかり掴まってて!」
「は、はい!」


「よく聞きなさい。黒木くんは今から何があっても、私の首についてる首輪の鎖から、絶対に手を離しちゃダメ。今福くんは、この刀を預かって。それから、何があっても黒木を離してはダメ。黒木くんは馬を操ると思って、それを手綱だと思って、君たちが帰るべき場所まで案内しなさい。そこまで、送り届けてあげるから」

そこまで一気に喋れば、二人は元気よく



「「はい!」」


そう返事をした。



ただきっとどう手綱だと思えば良いんだということだけは理解できてないだろう。

今は子供二人をおぶっているシュールな画になっている。








どうせそろそろ死ぬんだ。


この子達のために、この命使おう。



体を変えるイメージをする。

この小雨で少し不安もあったが、その心配は無用だった。



「な…っ!?」
「香織、さん!?」


怖がってるかな。化け物と思われたかな。

出会ってすぐだけど、もうすぐ私死ぬけど、嫌われたくはなかったな。





私は真っ白の虎に姿を変えた。





「見つけたぞクソガキども!今度こそ…………な、なんだこいつは!!!」
「と、虎だ!!化け物だぁ!!!!」


低く唸り声をあげ人拐い二人を威嚇する。


「こ、殺されるぞ!!!逃げろ!!」
「う、うわああぁああぁぁぁああ!!!!」


今さら私に背を向けるのか。喧嘩を売ってきたのは貴様等の方だ。逃がしはしない。

人拐い二人に飛びかかり踏み潰す。

そのすきに私は力の限りただ走り続けた。

樹が後ろへ後ろへ流れていく。

背中の温もりはまだ二つある。二人とも乗っているようだ。

たまに鎖が右へ左へ引っ張られる。黒木くんは本当に乗馬が得意のようだ。走りやすい。
















――――…化け物!

――……お前なんか人間じゃない!


―――――……観賞用にはもってこいだな


――……お前みたいな化け物に自由なんかないんだよ!






ガアァアアアァァア!!!!!!!!!








やめろやめろやめろやめろ!

今はこの子達を助けることだけに集中しろ!

昔ことを思い出すな!!

今はただ走れ!!


今は、今はこの子達のためだけに生きろ!!




















「香織さん!あそこです!あの建物です!!」


ここが彼らの帰る場所なのか。

最後の力を振り絞るように、私は山の絶壁を走り、今福くんの指差す方にある建物へ体を屈め、一気に飛び込んだ。


地に脚をつけ、着いたよ、と言う様に二人を見上げた。


よかった、無事二人ともいる。




「忍術学園だ…」
「帰って、来られたんだ…!!」

「「やったぁあーー!!!」」


無事に着地をすると二人とも抱き合って喜びあっていた。

よかった。この命、誰かの役に立って終えられるのか。



「庄、左ヱ門…!?庄左ヱ門なのか!?」
「彦四郎!!彦四郎!!!」



聞きなれない声が二つ。

二人の保護者かな。









「鉢屋先輩!!」
「尾浜先輩!!」





今にも泣き出しそうな声で背から飛び降りた二人の背中を見送り、

私は安心して、意識を手放したのだった。
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