ポアロにて。
千尋はいつも頼んでいるカフェオレを飲みながら友人である蘭や園子と話に花を咲かせていた。

会話の内容は主に己の恋人のことである。周囲に迷惑にならない程度に黄色い声を上げる三人をポアロの常連客たちは微笑ましいものを見るような目で見ていた。

「それで、その時新一が…」
「うんうん」
「この前真さんがね!」
「うんうん」

恋人のことを語る蘭と園子は恋する乙女、という言葉が似合いそうな可愛らしい顔をしている。こうして友人の恋人との話を聞いたりするのは初めてでとても楽しい。

暫く聞き役に徹していると園子が不満そうに頬を膨らませた。

「さっきから私たちのことばっかりじゃない!千尋ちゃんのことも聞かせてよ」
「私、のこと?」
「年上であんなにイケメンなんだもの!惚気の一つや二つ、あるんじゃないの〜?」

にやにやと笑う園子に千尋は頬を赤らめた。確かにあるにはあるが、こういう話を他人とするのは初めてで何を云えばいいか判らない。
不快にさせてしまわないだろうか、と視線を彷徨わせる千尋の目の前に新しいカップがそっと置かれた。

「どうぞ、お替わりです」
「あ、ありがとうございます…」
「僕も気になるんですけど、普段太宰さんとはどんなことされてるんですか?」
「えっ」

お盆を持っている安室がニコニコと笑いながらそんなことを聞いてきた。
普段太宰とどんなことをしているか。そう云われ、考えに考えて出てきた言葉は、

「心中……?」

だった。

「千尋ちゃん、それ大丈夫なの!?」
「だ、大丈夫。未遂だから」
「未遂だからって話じゃないですよ!?」

顔を青くした園子に肩を揺さぶられる。
しまった、今のは完全に間違えてしまった。この場に中也がいれば確実に頭を叩かれていることだろう。

目の前で慌てている園子たちを落ち着かせる為に千尋は言葉を重ねる。

「ほ、他にもしてる」
「……例えば、どんなこと?」
「一緒に本、読んだりとか」

そう云えば蘭がほっと胸を撫で下ろしているのが見えた。
これは読んでいる本が「完全自殺マニュアル」だということは口が裂けても云えない。

「じゃあ彼氏さんのどんなところが好き?」
「全部」
「そうじゃなくて!ほら、此処が特にってところとか」

園子に云われて考える。
太宰の特に好きなところ。改めて考えると中々思いつけない。少し危ない思考も、案外子供っぽいところも、独占欲が強いところも全部好きなのだから。

しいて云うならば一緒にいて幸せそうに笑ってくれるところだろうか。
考えていることが読みにくい太宰が、千尋を見て目を細め緩く笑むあの瞬間を見る度に好きが増していく。

「逆を考えて見ませんか?太宰さんの此処が嫌い、とか直してほしいところとかは?」
「直してほしいところ……」

嫌いなところ。直してほしいところ。
云われて思いついた、少しだけ直してほしいと思うところがあるのを。

「……電気を、消してほしい」
「電気?」
「そう、消してくれないの。恥ずかしいから、厭って云ってるのに」

そういう行為をする時必ずと云っていい程電気を消してくれない。
もう何度も体を重ねているのに今更じゃない、と云われるが何度見られようとも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
太宰に見られるのは勿論、自分の目に映るのも恥ずかしい。

行為が終わって如何して消してくれないのかを聞いても曖昧にされてその理由を教えてはくれない。

ということをぽつり、ぽつりと語る千尋は目の前の園子と蘭が顔を真っ赤にしていることには気付かない。安室も笑みを浮かべたまま固まっている。
幸いなことと云えば、小さな声で話していたので他の客には聞かれていないことだろうか。

少々不満が溜まっているのか、千尋はそのまま語る。

「あと、焦らされるのも厭だ」
「じ、焦らされる?」
「そう」

理性が溶けて、どろどろになって、漸く望んでいたものが与えられる。
溶けた頭では自分が何を云っているのか判らなくて、気が付いたら全てが終わっていることが多い。

然もそういう時に限って色々云ってくる。「明日中也と出掛ける用事はキャンセルね」だとか。そんなこと云われなくとも激しく抱かれて動けなくなることくらい判っているだろうに。

「へェ、そんな風に思ってたんだ」
「!」

いない筈の人間の声が聞こえてきて思わず肩が揺れた。
いつの間にか安室の隣に太宰が立っていて、にこにこと笑いながら千尋のことを見下ろしている。安室も太宰の接近には気付いていなかったようで驚いた顔をしていた。

如何して此処に。はくり、と口を動かす千尋に太宰はそれはもう優しく微笑んだ。厭な予感がする。というより厭な予感しかしない。

「そんなに云うんなら今日は君の望む通りにしようか」
「ま、待って。違、違うの、そうじゃなくて」

楽し気な太宰の様子に背筋が凍る。それこそ本当に、何もかも判らない程にどろどろに溶かされてしまう。
太宰の手が伸びてきて千尋の手を握った。嗚呼、逃げられない。








「見えるのが厭なら暗闇の中で触れられる感覚だけで私を感じて。溶かされるのが厭なら理性が残っているまま私を求めて。ねェ?」

私の優しさが伝わらなかったなんて残念だ。
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彩都さま、リクエストありがとうございました〜!
超上級者な惚気と言われて18禁な惚気しか思い浮かばなかったんですがこれでよろしかったでしょうか…!!
途中から安室さんが出張ってくるし、JK組は空気でアレですが楽しく書かせていただきました!有難うございます!
また企画した時は参加していただけると嬉しいです^^
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