これこれこれの続き



「此れは、どういうことですか?」
「返り討ちにした不良の山」
「そういう問題じゃないでしょう!!」

目の前には笑顔なのに怒っている兄。後ろには先程の乱闘で築かれた不良の山。
兄が何故ここにいるのかは判らないが面倒なことになった、と思わず溜息をつけば兄の笑顔の凄みが増した。

兄の手が頬に伸びる。ぴり、とした痛みについ顔を顰めた。どうやらいつの間にか怪我をしていたらしい。兄の顔が僅かに歪んで罪悪感を抱く。

「いつも、怪我だらけかと思っていたら……」

自分と同じ色の瞳に心配の色が滲んでいるのを見つけてしまい口を紡ぐ。こうして正面から自分のことを見て心配してくれるのは、梓とポアロのマスターぐらいだったのでとてもむず痒い。

こういう時、何と言えば兄は安心してくれるだろうか。梓やマスターは何でもないと言い張れば諦めてくれたけど兄はそれで諦めてくれないだろう。

言葉を選んでいる自分を見て後輩──人吉がしみじみと呟いた。

「先輩と安室さん、そっくりッスね」
「あ?」
「そう、ですか?」

何言ってるんだ、こいつは。と訝し気な目で見る自分とは違い兄は嬉しそうで口を閉じる。

そういえば説教の所為で忘れていたけれど、どうして兄が此処にいるんだ。しかも「降谷零」ではなく「安室透」として。
確かにこの学園──箱庭学園で行われていた「フラスコ計画」の所為で割と機密が多いがそれを探る為に来たのだろうか。出来ることならば兄にあの計画のことなど知ってほしくない。

「見て」みようかと眼鏡を外そうとしてその手を止める。それは自分が踏み込んでいい領域ではないのだ。

かつての同級生があの計画のことをこの世の地獄と例えていた。
確かにそうだ。人の欲望が入り混じり、地獄と例えるのに相応しいものだった。

兄が自分に綺麗でいてほしいと思うと同じように、自分も兄もあの地獄など知らないままでいてほしい。

「降谷くん、後でじっっっっくりお話しましょうね
「……うす」

キラキラと笑顔を浮かべながらも怒っていることが判る兄に素直に頷いた。





兄の車に乗せられた帰り道。
今日はポアロのシフトも入っていないので別に構わないのだが、車内に漂う何とも言えない空気が少々辛い。

「……絶対安静」
「んぁ?」
「絶対安静って、どういうことだ」
「………」

ハンドルを握り締め、前を見据えている兄の顔は険しい。
乱闘中、人吉が叫んでいたことを覚えているらしい。しかしそうだとしても、兄には言えない。

家出をした後生きていく為に内臓の幾つかを犠牲にした、なんて。
知ってしまえば兄が罪悪感で死んでしまう。

そもそも家出をするのを決めたのも、生きていく為に、異常をどうにかしようとフラスコ計画への参加を決めたのも全て自分だ。
兄が気に病む理由などないのに、自分の発言の所為だと顔を歪める兄を見たくなかった。

「言えない、ことなのか」
「……言ったら、絶対気に病む」
「そう、か」

ぽつりと呟いた兄はハンドルを動かし、向かう先を変更した。
兄の家に連れて行かれると思っていたが違うのか。それとも自分の発言で行き先を変えたのか。

「ッ何処に行くんだよ!」
「病院だ。精密検査をしよう」

そこまでして知りたいのか。
此方のことなどお構い無しな兄に深く深く溜息をつく。兄のことを思っての黙りだったが逆効果だったようだ。

座席に埋もれながら、口を開く。

「無駄だって」
「無駄なことがあるもんか!治るなら、」
「治らねぇよ。腹ん中がないだけだから」
「……は?」

兄の間抜けな声が聞こえる。どんな顔で此方を見ているのか見たくなくって、わざとらしく顔を窓へと向けた。
ゆっくりとスピードが落ちていく。ハザードの音がして車は止まった。

「腹の中が、ない、だと?」
「そう。それだけ。激しい運動が駄目なだけで日常生活に問題はねぇよ」

誰からも視認されることのなかった生徒会長を見つけてしまったが故にフラスコ計画から抜けることになった。
それ自体に後悔も恨みもない。フラスコ計画より生徒会の方が面白そうだと思っての行動だし(もう二度としたくないが)、抜ける代償として幾つかの内臓を差し出したのは自身の選択である。

この世の地獄を見ることが出来たのだ。その代償が幾つかの内臓で済んだのだ。満足している。

「な、んで…そんな、」
「……あー。生きる為、かな」

フラスコ計画に参加すれば一切の衣食住を保証する、なんて言われてしまってほいほい釣られてしまった結果である。
そう告げると、兄は死にそうな顔で職場に戻っていった。

ああ、学園に来た理由を聞くのを忘れていた。













「風見…弟が、僕の弟が……」
「ふ、降谷さん!気をしっかり持ってください!!」
「僕の所為で体を売っていた……」
「えっ」

兄の職場で勘違いされていることを気付ける日はくるのだろうか。
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紅さま、リクエストありがとうございました〜!
多分この後の降谷さんは弟くんの内臓をどうにかしようと奮闘するのではないでしょうか…
目高の時系列的には生徒会戦挙前というイメージで書いているので、内臓問題は球磨川くんに言えば解決しそうです('ω')
このネタはぼちぼち書けたらなぁと思っているので、その時はお付き合いいただけると嬉しいです!^^
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