鈴木財閥の系列会社が横浜にデパートをオープンさせた。様々なテナントが入り、かなりの規模らしい。

例によって例のごとく。
園子に「遊びに行かないか」と誘われた蘭とコナン、それと灰原を除く少年探偵団は週末を利用して横浜に向かっていた。矢張りと言うべきか、安室と沖矢も一緒に。

沖矢、基赤井は灰原の護衛として生活しているのだから来なくてもいいのではと思ったが、園子に誘われたというのもあるが、本人が「気になることがあるので」と言うので同行することになった。

「もし千尋ちゃんに会えたらどうします?」

全員が乗れるように、と借りたレンタカーの中で園子が楽しげな様子を隠さず安室に声をかけた。横浜は今回不参加である千尋の実家がある場所だ。遭遇しないという可能性もない訳ではない。

園子の問いに安室はにっこりと爽やかな笑みを浮かべた。

「デートにでも誘いましょうか」
「きゃ〜!流石安室さん!」
「ちょっと園子。落ち着いて!」

色恋沙汰が好きな園子が興奮したように声を上げる。落ち着くようにと蘭が声をかけるが園子の頬は赤く染まっている。

確かに安室の外見は整っているし、千尋自身も見劣りしない程の容姿の持ち主だ。
しかし千尋には既に恋人がいることを園子は忘れているのだろうか。態々横浜から牽制する為だけに来ていたのに。

キャッキャッとはしゃぐ園子にニコニコと笑いながら運転する安室。
今日は少年探偵団の面々に手を焼くかなと思っていたのだが、案外そうでもないかもしれない。

何事もなく終わればいいが。コナンがそう思った時だった。

「ホー…それは奇遇ですね。僕もそうしようと思っていたんですよ」
「は?」

沖矢がその会話に口を挟む。
何を言ってるんだ、この人は。意図的かは判らないが安室を煽るような言葉にコナンは冷や汗をかく。

千尋と、彼女の知り合いに興味があると沖矢は言っていたがそれは単純な興味だけだろう。しかし安室はガチ恋勢なのだ。こんな狭い車内で無用な諍いを起こすのは辞めてほしい。

「あ、安室さん!前!前見て!!」

普段の甘いマスクからは想像出来ない般若のような顔をする安室に、コナンは必死に声をかけた。




「おー!スゲー!」
「おっきいー!」
「人がいっぱいですよー!」

何とか無事に横浜に着いた。
デパートの大きさや人の多さに無邪気に感嘆の声を上げている元太、歩美、光彦の三人が心底羨ましい。
コナンは安室と沖矢の諍いが起きないようにと必死だったのに。

事の切っ掛けともいえる園子は既に蘭と何処のショップに行こうかなんて話している。
……今日は楽しめないかもしれない。はぁ、と溜息をついたコナンの頭上から安室の呟きが落ちてきた。

「あれは…千尋さん?」
「え?」

まさか本当に遭遇するとは思わなかった。安室の視線を辿れば、千尋と赤銅色の髪を持つ青年が歩いていた。

あの青年は知っている。安室が最初にポアロで千尋に公開告白をした時に迎えに来た青年だ。確か千尋は彼のことを「中也」と呼んでいた。

此方には気付いた様子のない千尋は楽しそうに青年と談笑している。

「……園子さん、蘭さん!すみません、僕、少し用事が出来たので別行動しますね!」
「ぼ、僕もー!」
「僕も少し行ってきますね」

「あ、三人とも!」

蘭の引き留めるような声は聞こえなかったふりをして、コナンは先に走り出した安室の後を追う。
千尋ガチ勢ともいえる安室が何をしでかすのか不安で堪らない。否、安室も良識ある大人だ。問題を起こすようなことはないと思うが万が一のことがある。そう考えれば沖矢がいてくれるのは助かる。

あからさまに千尋の尾行を行う安室とそっと合流する。

「あ、安室さん。千尋お姉さんを尾行してどうするの?」
「決まってるだろう、コナンくん。千尋さんに相応しいか見極めるんだよ…!!」

そんなことを言う安室の目はガチである。
大人げない安室に呆れつつ付き合うコナンもコナンであるが。

「いやぁ千尋さんも大変ですね」
「貴方が千尋さんの名前を勝手に呼ばないでくれます??」
「安室さん大人げないよ……」

沖矢を睨みつける安室に事態は更に混沌と化していく。尾行していることが千尋に気付かれなければいいのだが、こんなに騒いでいたら気付かれるのも時間の問題だろう。だがオープンしたばかりで人も多いので案外気付かれないかもしれない。

どうするべきだろうか。救いを求めても仕方ないのだが、助けを求めるように千尋を見ると丁度店頭に飾られているマネキンを眺めているようだった。

「わ、わぁー!千尋お姉さん、あんなのが好きなのかなぁ?」

わざとらしく声を上げれば、安室が即座に反応にする。ガチ勢怖いなと思いながらコナンも千尋を見る。

店頭にあるマネキンが着ている服はボーイッシュなものが多く、正直千尋がああいう服を好むというのは意外である。

「ねェ、中也。これ似合う?」

そう云って千尋は手近にあった薄桃色のワンピースを自分の体に当てた。どちらかといえば清純そうな顔立ちをしている千尋には先ほどの服よりもよく似合う。
安室もそう思っているようでうんうんと力強く頷いている。が、今彼女と買い物をしている中也と呼ばれた青年は違うようだ。

「手前の好みだと此方(こっち)だろ」
「……だって顔に似合わないんだもの」

マネキンが着ている服と同じものを取り出し千尋に見せているが、千尋はそれを柔らかく拒否している。表情は変わっていないがどこか悲しそうだ。

「確かに似合う服と好みの服は違うものですよね」なんて沖矢が呟いているのを聞きながら安室を見れば、「僕が似合う服を用意しますよ!」と小声で千尋を慰めていた。

「……なら、これだな」
「わ、わ」
「ほら、これも」
「中也、だから」

次々と千尋に服を渡していく青年。渡す服はどれもボーイッシュなものばかりで、千尋は困惑した顔を見せている。
なんとか止めようとしているが、青年は千尋の言葉に反応しない。それどころかこれもあれもと服を選んでいく。

「好きなモン着て何が悪ィんだ。文句云う奴は俺が張っ倒してやる」
「中也……」
「それにな、俺は手前が好きなモン着て好きなモン食って笑ってンのを見るのが好きなんだよ。……ああ、矢ッ張り赤が似合うな」

青年の言葉に千尋は薄く笑って、青年が選ぶ服を嬉しそうに抱き締めている。
……凄い、恰好いい。コナンは純粋にそう思った。拒否をしていた千尋も照れながらも笑って似合わないからと諦めようとした服を選んでいる。その様子はとても楽し気だ。

「僕だってあれくらい…!」
「ホー…中々の手腕ですね」
「ね!凄いね!」

悔しがっている安室は置いておいて、感心している沖矢と言葉を交わす。
ああいう言葉が似合うような、そんな男になりたいものだ。
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紫陽花さま、リクエストありがとうございました〜!
中也さんは世話好きなイメージが強いので、まさしくスパダリ!って感じの話が書ければよかったんですが私の語彙力がないばかりにスパ、ダリ…?といった風になってしまいましたが如何でしょうか…!!
番外編では中也さんも活躍する(予定)なのでお付き合いいただけると嬉しいです^^
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