「……主上が開けて下さいよ」
「い、いやだ。ああ、絳攸がやったらどうだ?」
「俺、頭脳労働しかしてないから、箸より重いものは動かせないんだ!」
「むむむむ、楸え…」
「私は主上の付き添いに過ぎませんから」
「……ぐっ」
そうして三人がわらわらと話をしていた目の前で、一人でに扉が開いた。――いや、中から開けるものがいたのだ
「人んちのまえで騒がしい…今日はまたそっちからだなんて、何の用だよお三方……っていうか何で俺んちの場所知って」
「――櫂兎?!」
劉輝は驚愕の声をあげた。
「棚夏殿、先程ここが自分の邸だとおっしゃいましたね?」
絳攸の問いに櫂兎は何がなんだか分からない風に頷いた。
「出来てから今の今まで、ずっと俺んちだけど」
「…………棚夏殿」
「えっ、え、何楸瑛その手は。ちょ、二人も何か近い近い」
じりじりと寄られ、櫂兎は後ずさる。これは――北斗に脱がされた時に似ている。
(三人がかりなんて卑怯だろぉぉお!?)
櫂兎は身をバッと翻し駆け出した。
「楸瑛は櫂兎の後を追え、余と絳攸は室を調べる!」
「いいんですか、侵入罪と窃盗未遂ですよ」
「勅命扱いにする、だから問題ない」
「それって職権乱用では」
そういいつつも絳攸は近くの室の扉をあけ、探り出す。楸瑛も櫂兎を追い疾走した
「……っはあ、う……なんなんだ…」
櫂兎は壁に背をもたれかけさせ、深く息をつく
「棚夏殿」
「……っうっぎゃああああ」
肩に手を置かれ、楸瑛の顔を見とめた櫂兎はその手を振り払い、また逃走をはじめた。
「……ちょっとへこむなぁ。というか、逃げられちゃ確かめられないじゃないか」
そうして耳を澄ます。
「……んー、足音きこえないなんて。棚夏殿、足音殺してるねぇ。普通に歩いたら足音なりやすいんだから随分よくできた邸だ」
そう言いつつも、向かう先は変わらない。彼は先程から奥へ奥へと逃げて行っている。最奥まで追い詰めれば、あとは書状を彼が持っているか、そしてその書状に記された名が彼の名であるか確かめるだけだ
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