目が覚めたら棺桶5
・下心
俊臣と二人きり。空いた距離。今日はそれに、もの申すことにした。

「『今のものは、私照れるます! 居れば許可よ、前いた場所。居たい望むに』」

雀の涙ほどしか知らないこの国の語彙を必死に並べて、考えたこの言葉。伝わっているだろうか。
「今の扱われ方は恥ずかしいから、以前のようにしてほしい。いたい場所にいてほしい」と、言っているつもりなのだが。要は、「こっちにおいで」だったりする。

私は、彼との空いてしまった距離に、不覚にもときめく羽目になったわけだけど。ときめく故に、それをちょっと詰めてもみたくなるわけで。

表向きは、女性扱いされているようで恥ずかしいことにして。いや実際恥ずかしいから勘弁願いたいとも思うんだけれどさ。それと同じくらい嬉しくもあるから、困る。あ〜こまっちゃうなあ〜。ふへへ。
おっと話が逸れた。まあつまり、これは、表向き「意識しちゃって恥ずかしいよ」と告げつつ、「意識しないために」と言いながら接近するという、完璧な作戦なのだ。
……下心たっぷりなのを知らん顔するなんて、後ろめたさがマッキンリーだけど。

さて、ここから俊臣がどういう反応、行動をみせるか。ああ、なんか緊張してきた。

俊臣は、暫く私を見つめてから、ふうんと不思議な笑みを浮かべた。

『それじゃあ、お言葉に甘えて?』

『言葉』に『甘える』、これはもしや。
作戦成功ではー! と、目を輝かせた私に近付いた俊臣は、ぽすんぽすんとまるで子供にするように、私の頭を撫でた。

ひぎぃー!
あんまりな刺激に卒倒しそうになり、頭に乗せられた手も払い除けてしまう。ああ、私の馬鹿!

『……そういうところ見てると、本当に女の子みたいだよね』

ちょっと。今のはだいたい意味がとれたぞ。『女の子みたいだね』って、女の子ですからね?
抗議の意も込めて、俊臣の横腹をぺちぺち叩いた。


・夜型
夜型生活を更生させるべく、俊臣を棺桶から引き摺りだしてみた。日光を浴びてこの世の絶望のような顔をしているのをみて、ヴァンパイア伝説というのは俊臣のような夜型人間の噂が元になっているんではないかと思った。


・夜型A
ヴァンパイア伝説を俊臣にしたところ、大変興味深そうにしていた。似たような類の話はこちらでもあるらしく、大蒜も一種の魔除け厄除けグッズらしい。
信心深い人は多いようで、各地の伝承伝説は、今尚信じられているものが多いのだとか。彩雲国の建国話にも、仙人が出てくるらしいしね。なんてふぁんたじぃ。俊臣自身は信じているのかどうなのか訊いたら、曖昧に笑って誤魔化された。

しかし、文明にしろ国にしろ、私の知らないモノだ。似たようなものなら知っているとはいえ、あれは大昔のことで。なら、此処は一体『何』なのだろうか。そして私は、どうすればいいのか。
そんな不安が顔に出ていたらしい。俊臣に心配された。一生の不覚だ。ずっと不覚をとっている気もするけれど。
ゆっくりでいいと言われた。相談にも乗るからと、一人で考えることはないと言われた。そうして、彼が背中をトントンと優しいリズムで叩くので、うっかり涙がポロリと落ちた。
ああ、優しさが、なんて、なんて。こんなのって狡い。こんなの、縋ってしまうに決まってる。
俯いて、静かに、泣いた。

後になって、あのリズムは彼が木魚を叩くリズムと同じであることに気付いた。私の涙を返せ。


・膝
俊臣の仕事に付き合って夜更かししているせいで、昼間起きるのが辛くなってきた今日この頃。
ホァッ。ね、寝かけてた…いかんいかん、いけないぞー、私。起きろー私。
頬をつねり膝をつねりしてみるけれど、痛いと眠いはジャンルが違うらしい、うう、瞼が…あふん。

…………、……。

はっ、寝てた! 寝てた寝てた! あああ、どれだけ時間が経った!?

『おはよう』
「な、は、ひゃっ…『おひゃりょうごじゃります』」

待て、何故俊臣の顔が目の前に? いや、何だか覗き込まれているような感じだけれど。そして私の後頭部にあたるこれは何?
えっ、えっ、これってまさか。

「……膝枕?」
『疲れていたんだね、忙しかったものね。まだ寝てていいよ』

ぎゃーっ、膝枕だ! もういいですもう充分だから! 寝させようとしないで!
膝に何度か座らされていたから、かたいのは知っていたけれど! ああやっぱり男の人だなあなんて思っちゃったじゃないか、もう!

「『無問題大丈夫! 元気よ私!』」

そこで芽生えた出来心。おかえし、という体をとれば、俊臣に膝枕できるのではないか?
私の提案は、あっさり受け入れられた。

膝の上に、俊臣の頭が乗っている。俊臣は目を閉じて、ごろんと横になっている状態だ。

「……ううう」

……あかん、これはずかしい。
私のおばか…いくじなし…かんがえなし…
自分でやっておいて…恥ずかしくなるとかもう、馬鹿なの…。私のっ、お馬鹿さんっ…!

くすくすくす、と俊臣が笑う。

気づかれてるしいいい!
頭を抱え悶える私を、俊臣は更に笑う。

むぐぐ。だって、恥ずかしいものは恥ずかしいものでしょう? それだけよ、それだけ。
そうして、つーんとそっぽを向いてみせたら、俊臣はまた、堪え切れないとでもいうように身体を捩って笑って、私の頬を撫でた。

だからそういうの、やめよう?
勘違い、しちゃうでしょ?

この間から、ちょっと、このままじゃあまずい気がしてばっかりだ。彼からの親愛が心地よくて、その距離感が好きで、温度に安心するのに、どうしてだろう。私はこんなにも満たされているのに。彼が、それ以上をくれるから、あんまりにも優しいから。期待してしまって、勘違いしそうで、怖いや。

6 / 10
目が覚めたら棺桶
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -