暑いので
夏真っ盛り。今年は猛暑、官吏らはばたりばたりと倒れていく日々。そんな中、霄太師が『超梅干し』――倒れた者でさえたちどころに復活するほどやたらすごい梅干しの入った壺を持っているという噂が流れた。


ばてばて官吏らも最後の力を振り絞り霄太師を追う。回廊を疾走する霄太師とそれを追う官吏らの光景は珍しくなかった。


(……というか、その走るエネルギーを仕事に向ければいいのに……しかもいい歳して霄太師もよくまああれだけ走る)


僕が追いかける気力もわかず、ひたすらせっせと仕事をするのは、いつか尚書になる日のためだ。


(あー、蔡尚書って、鬘外せば少し涼しくなるかもなー。僕にはできない清涼術だ。羨ましくはないけど)


呑気に考えながら、吏部へ書類を届けに行く途中の話だった。
やけに激しい足音が近づくと思えば――目の前から霄太師を追う大群が現れた。丁度後ろの官吏らが、霄太師を止めてくれと必死の形相でアイコンタクトする。普段この厳しい面で人と顔合わせるの少ないのだが、皆必死でそんなの気にして居られないらしい。


霄太師も此方に気付いては出方を伺っている様子。何もせず、自分はただ霄太師を見るだけだ。正しく言えば霄太師が持っているであろう茶家当主を示す指輪の入っている、梅干し壺を。


と、どうやらそれが自分も梅干し壺を狙う輩の一味ととられる原因になったらしい。霄太師は軌道変更し、庭に出ようとしたが……それは後ろの官吏らが足つかんできたことでかなわなかった。
足を掴まれ霄太師は前へつんのめった。開いた手と離れた壺に唖然とした顔を浮かべたまま前へ転倒する霄太師。


スローモーションかかったようにゆっくりと宙を舞った梅干し壺を魯はすかさず受け止めた。


「……遺品なのですから大切に扱うのはいいんですけど、窃盗はやめてください」


(中身がばれとるじゃと?! い、いやそんなはずは…だいたいどうしてこやつが知っとるはずあるんじゃ。聞き間違いじゃの、聞き間違い)




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魚の大口
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