目が覚めたら棺桶3
・スイスでの生活
スイスでは日が沈んでから活動するらしい。確かに今の暑い季節にはいいのかもしれない。けれど人間ってのは、基本的に日中に活動するようにできているものだ。スイス人は確実に体内時計がくるっている。なんとかしないと。


・いいスイス人と残念なスイス人
日本人にもいろんなタイプがいるように、スイス人にもいろんなタイプがいるらしい。大まかには、いいスイス人と残念なスイス人に分かれる。『しゅんしん』は残念なスイス人だ。


・言葉のお勉強@
基本的に、新しい言葉は現物を見て、声を出して練習する。今日新たに覚えた言葉は『男』、これは「人間」を表している。…多分。
『しゅんしん』が、私を指して、自分を指差して、周りの人たちを指差して『男』と言っていたから。単体でも複数でも、『男』というからには、それの属するものであったり性質であったりするのだろう。そこから思いついた。きっと当たっているに違いない、我ながら名推理だ。

「『男』、『男』」

うんうん、と横では俊臣やその他スイス人が頷いている。ここ数日で、すっかりお馴染みとなった光景だ。

「『男』、『男』、『男』」

廊下を忙しそうに歩く人達は少し不審そうな顔をして、それでも仕事が忙しいらしく慌ただしげに去っていく。

「『男』、『男』……? 発音できてる?」

こてんと首を傾げて『しゅんしん』を見れば、ぽふぽふと頭を撫でられた。
廊下を丁度通りかかっていた、熊のようなも風体の男と、まるで女の子のような可愛らしい少年は、私の言葉を聞いて、なぜか慌てていた。スイスの人にとって聞きなれない日本語は、きっと奇妙な音に聞こえたのだろう。私も、スイスの言葉は奇妙だと思うよ。


・気付き
スイスは、スイスじゃなかった。…うん、知ってた。

事の起こりは数時間前。そろそろ滞在先に一報いれねばと、身振り手振りで外に行きたいことを伝えたら、『しゅんしん』が街を案内してくれることになった。
何を言っているかは相変わらずさっぱり分からない。けれども、きっと彼のことだから、熱心に街について説明をしてくれていたんだろうなと思った。
街並みをみて、さすがにここまでくれば、いくら日本ではない、スイスであるとしてもおかしいことくらいはよく分かった。受け入れざるを得なかった。

最初から、全部、おかしかったのだ。


・言葉のお勉強A
漢字が通じた。意思疎通が随分と楽になった。ここはスイスではなく、彩雲国であることも、『しゅんしん』は『俊臣』と書くことも、私の素性はここでは不確かで、彼が私の身柄を預かっているということも、知った。話すことは、まだまだできないけれど。これから上手くなるだろう。話せることは、増えるだろう。
このまま、帰れないかもしれないことは、考えないことにした。


・誤解
ずっと男だと思われていたらしい。『男』が「男」の意味であることを知って、気付いた。
子供だと誤解されているであろうのは、ばっちり把握していたが、それは予想外だった。そんなにレディーとしての魅力がないか私は! 確かにレディーの象徴はつるぺただけども!
ちなみに。片言ながら女だと言い張ってみたものの、冗談だと思われて、信じてもらえなかった。南無三。


・手伝い
語彙も増えてきたので、俊臣の仕事の簡単な手伝いをすることになった。手伝いといっても、雑用だが。
彼らが夜型なのは、何とかならないんだろうか。彩雲国のお国柄とも思ったが、他の職場では昼間仕事をしているらしいし、ここの仕事が夜やらねばならない仕事というわけでもない。
ああ、もしかしてもしかしなくとも、俊臣は変人なのか。…今更だわ。


4 / 10
目が覚めたら棺桶
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -