「よー、鍋しようぜ鍋! はくさいが特売でさー」
真夏に鍋。そんなことを提案しながら、ベランダから家へとずかずか入り込んできた男に、当麻はぎょっとした。インデックスはというと、ベランダから入ってきたことに全く驚かず「わーい櫂兎ー」と男にかけよっている。とりあえず彼の名前は確認できた。
櫂兎は、自分を見つめる当麻の視線に首を傾げた後、ぽんと手を打って納得顔になった。
「当麻、台所借りるよ」
そういって台所へとむかう櫂兎が、当麻とすれ違った時、当麻にしかきこえないほどの小さな声でささやいた。
「記憶、きえちゃった?」
ばっと振り向いた当麻に、櫂兎は背中を向けたまま、「話は鍋のあとで、二人でしようか」といった。
とある魔術の禁書目録
真夏にクーラーのきいた部屋で鍋という贅沢をしたあと、櫂兎は当麻だけを家から連れ出した。外は八月中旬なだけに室内の涼しさとおおきく違って蒸し暑い。しばらく歩いたところで、木陰の下で立ちどまる。そしてくるりと当麻に向き合った
「さて、当麻の記憶が消えたことが分かった理由は気になると思うけれど、その話の前に俺の自己紹介をしよう」
にこりと笑って、彼は腰に手を当てた。
「棚夏櫂兎、永遠の26歳。きみにとっては近所のお兄さん、って位置になるのかな。君んちに勝手に侵入して食事をつくったりだらだらしゃべりにくるようなお節介で暇そうな人間だ。そう、記憶を失う前の君にとっては」
「はあ…」
「しかーぁし!」
いきなり櫂兎が声を張ったので、当麻は肩を跳ねさせた。蝉がぼとりとアスファルトに落ちる
「その正体は、現代に生きる魔法使いなのであった! 完!」
「いきなり終わった!」
「次回予告、さてその彼の目的とは? 数々の謎が次回明かされる! 第二話、『妹を探してるんです』こうご期待!!」
「もう今言った!!」
ミーンと、あたりを蝉の鳴が占めた。木陰とはいえこんなテンションで暑くないんだろうか。
「……いやー、ちゃんと突っ込んでくれるから俺もボケ甲斐があるよー」
何故か嬉しそうに、そして照れながら櫂兎は頬をかいた。
「そんなわけで近所のお兄さんは魔法使いなんです、君が最近接触したような魔術師とはちょっと違うけれど、基本魔法は使ってないし普通の人間みたいに今まで通りよろしくね。…っていままでを覚えてないのにそれ言ってもなんか変だけれど」
「……魔術師、と違う?」
「ん、全然」
さっきは「ちょっと」といったのに今度は全然だという彼に眉根を寄せる。
「…まあ、いろいろ面倒な手続きや儀式を踏まず直接いろいろ起こせるってとこだ」
そういって彼は掌にぽんと、桜の花の咲いた枝を出現させた。
「…手品?」
「……話聞いてた?」
櫂兎は溜息をついた。
「その辺の説明どうもうまくできないから、まあ魔術じゃないってだけ知っといてくれたらいいや」
櫂兎はそうして半ば投げやりにまとめた。それでいいのか。
「…ん? じゃあやっぱり俺の記憶がなくなったのもその魔法で知ったのか?」
「いや、ベランダ登場は俺のルックでいつも驚きもしない当麻が、初めて見たような驚き方したからかまかけてみただけ」
当麻は盛大にずっこけた。
「その幻想をぶち壊す!」
「夢見たっていいじゃないか」
:: 補足
夢主の「魔法」は世界を変えるのではなく、その世界にあるものを使って現象を起こすものなので世界に与える影響は±0、幻想殺しは効きがいまいちだったりする。のを本編に入れるだけの尺がなかったよ! ←
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bkm