「おーい墨村、起きろー」
ペシと頭叩かれ起きた良守は、はっとあたりを見回して教室内に誰もいないことに慌てふためた。
「何ごと!」
「この時間のこのクラスは…移動教室だと。お前置いてかれてんぞ、友達いねえんじゃねえの」
そう言うのは、良守を起こした張本人、そして月一カウンセリング教師の棚夏だ。
「しかし昼間からこんな寝にくいところで寝て、寝不足か? 夜更かしでもしたのか」
「あ、あはは、まあそんなとこです」
寝不足なのは、夜の学校での連日の妖退治のせいだ。
「ふうん? まあ、先生はこれから屋上で優雅に昼寝してくるから、お勉強頑張れよ学生」
ぽすっと良守の頭を撫で、彼は教室を出て行った。
結界師
昼間に移動教室を寝過ごしただけはあって、その夜は目が冴えていた。
「あんまり突っ走るんじゃないわよ」
「今日は調子いいんだ!」
時音の注意も聞き流し、寄ってきた妖怪たちを次々と滅していく。そのうちの一匹がうまくすり抜け、逃げていってしまった。
「ほら言ったじゃない」
「うっ、ちょっと油断しただけだ!」
そういうと良守は妖怪を追いかけた。妖怪は校舎の方へ向かっているかと思えば、急上昇をはじめた。良守も結界で足場を作り、上へ上へと追いかける。かなり高くにあがったところで、月明かりに照らされた屋上がみえた。
(――人影?!)
そこで昼間、教師の棚夏が屋上で昼寝するなんて話をしていたことを思い出す。寝過ごしはお互い様ではないか。……ではなくて。
「やべっ」
妖怪も他の人間の存在に気付き、そちらに向かいはじめた。そちらは良守と違い無害と判断したのだろう。
棚夏はもそもそと動いては、今起きた風に大きなあくびをして立ち上がり、伸びをしたかと思うと、良守と妖怪を視認する。
「って、先生見えてんのか?!」
妖怪の後を追いながら、良守は驚く。確かに妖怪の方をみているように思えた。妖怪は、彼のすぐ近くにまで迫っている。
「結っ!」
妖怪を狙うが、外れる。妖怪が彼に襲いかかる、間に合わないと思った、次の瞬間。
「えいっ」
棚夏は、妖怪に平手チョップを繰り出していた。地面にべチッと落ちた妖怪をこんどは何度も何度もふんずけている。奇妙な叫び声をあげている妖怪に、少し同情してしまった。
「墨村、あとの処理は頼んだぞー」
弱りきってぐったりと倒れている妖怪を、棚夏は踏みつけることをやめ、そう言って手をひらひらと良守に降ったかと思うと、屋上から飛び降りた。
「っうえええ?!」
下を覗き込んでも、どこにも彼はみあたらない。
取り敢えずその場は、弱りきった妖怪を滅し、時音のところへ戻った。
次の月、何事もなかったかのように学校に訪れた彼に、良守はコーヒー牛乳を吹いた。
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