ハリー・ポッター
「これだけ生きていれば実年齢言うのも気にならなくなるね、皆が信じるかどうかはともかく」


ハリー・ポッター 〜異世界人と古代トリップ〜




佳那の机の上にあった、かの有名な児童書、ハリポタを手にした俺はとにかく何が何でもハリポタ世界へGOしようと力んで逆立ち土下座回転色々試してみた。うん、無理。そんなファンタジー簡単に起きない。しかしここで諦めるわけにはいかないのだ、可愛いを具現化したような彼女をみた男どもが惚れないわけがない。だが二次元男子どもに妹をくれてやるわけにはいかない。俺は一心不乱に祈りを捧げた。


何度目だっただろうか、意識も朦朧として、謎の儀式と化していたその祈りは――叶えられた。
頭上から引っ張られる感覚。そして、一瞬にして景色が変わった。


「ぎゃああああ先生ええええ! 何か地面から生えたあああああ!」


俺と目線の同じくらいな少年が、そう言って俺を指差して泣き出した。ぞろぞろと集まる子供達をぬって、大人が二人此方にやってくる。


「呼び出し魔法が失敗したのね。…うん、空間の歪んだ跡がある」


綺麗な女性が、こちらを見下ろしふむふむと頷いている。男性は集まっていた子供達に離れるように言う。俺の周りには、俺を指さし泣く子供、冷静な様子で状況を判断する大人二人の三人だけになった。


「どうでもいいので助けて下さい……」


そう、視点が低いと思っていたら、俺は地面から上半身だけ文字通り生えていたのだ。下半身が何処にあるかは、恐ろしすぎて考えたくもない。


大人二人は、何か相談した風にした後、何か呪文を唱えたかと思うと、俺の腕を片方ずつぐっと持った。


「え?」


これから起こりそうなことにまさかと戦慄する。


「せーのっ」


せーのじゃねえよそんなんで大丈夫かよ!という俺の心の叫びも虚しく二人は俺の腕を力任せに引っ張る。結果、俺は地面から引っこ抜かれた。物理的に。下半身は無事だった。

やり切った顔で額の汗を拭う女性、「足りない部分はない?」と恐ろしい質問をして下さりやがった。
ぜえぜえ言ってる男性、体力ないのか。心なしか顔も青白く、どこか温室育ちっぽい。


「あまり驚いてないみたいだけれど、こういう事象――魔法は知ってるの?」


いや、かなり驚いてますが。色々いきなりすぎて。


「存在は知ってる、使い方は知らない」


「そう。…ねぇ、使ってみたいとは思わない?」


「おいロウェナ」


「いいじゃない、どうせあの二人のことだし誰でも歓迎でしょ。ここ、魔法を教える魔法学校なのよ、まだ出来て間もないから生徒も少ないけれど。貴方が望むなら、使い方を教えてあげられる」


「……私は反対だ」


「生徒の責任は私達の責任。呼び出された彼が元の場所に帰ることのできる可能性なんて無いに等しいのだから、面倒みるのは当然でしょう?」


え?
何だって?


「戻れ、ない?」


「奇跡でも起きない限りあり得ないわ」


その声は淡々とそれが事実であることを告げていた。








呆然としている俺をよそに、二人は言い争い、結果、男性が折れていた。どうやら教師は今のところ全員で四人いるらしく、残りの二人に話をしてくると女性のみ離れていった。その場には男性と、少年が残る。さっきから無言を貫いていた少年が、また思い出したように瞳から涙をボロボロ落としはじめる。慌てて宥めようとする俺に、掛けられた言葉は「ごめんなさい」だった。


「ぼ…僕が、失敗したせいで、も、戻れなくなっちゃったんでしょう?」


嗚咽混じりに言われ、戸惑う。俺もまだ状況が飲み込めずにいるのだ。俺がハリポタ世界を望んで来た先は、まだ出来たてらしい魔法学校の授業の一コマ、呼び出し魔法の実践中だった? 魔法、というからには杖も持ってるし多分ハリポタ世界であっているんだろうが。本当に戻れないのか? 何故か、そのことに違和感を抱いて仕方なかった。どうしてか、俺は妹が居る居ない関係なく戻れると考えているのだ。


「少なくとも俺は戻れないとは思ってない。奇跡はそこらに溢れかえっているものだからな。俺は責める気ないし、気にすんな」


ニィと笑ってみせると、目を丸くされた。そして更に泣かれた。…どうしろというんだ
助けてくださいとさっきからこっちを無視決め込んでる男性に目線で訴えてみたら、彼は杖を振った。少年が力を失ったように倒れる。慌てて支えれば、寝息が聞こえてきた。


「……」


こいつ、泣き止ませられないからって眠らせやがったぞ。あれか、不器用さんか。


「楽観的だな」


男性は、そう言って鼻で笑った。先程の俺の発言に対してだろう


「魔法には期待するな、残念ながらお前が思っているほど何でもは出来ない」


「魔法じゃなく、俺の力に期待してるんだよ」


多分俺がここにいるのは、この少年の呼び出し魔法のせいとは言い切れない。何せ、俺は祈ったのだ、確実に他の世界へ行くことを。


「……、まあいい。彼奴らが来るまでに此処がどこか教えてやる」


「魔法学校だろ?」


「そういうことじゃない、お前、自分が今いる国や地区、場所も知らずに何処からきたと訊かれて答えられるか?」


要するに、此方に分かる説明をさせるために聞け、ということか。別段ただ何処からきたか問われれば答えられないわけではない。自宅の住所をつらつらというだけ、しかしそれで彼らに通じるかは疑問だ。そんなわけで首を横に振る。


「先ずは名乗ろう。私の名はサラザール・スリザリン」


「ストップ」


「…? 何だ」


「此処が何処かよくよく分かりました」


そういやさっきの女性もロウェナとか呼ばれてたもんね!? 魔法学校が出来たてとか言ってたもんね!? ハリポタはハリポタでも、創設者時代ですよ奥さん。…誰に対して言っているのかは自分でもよく分からない


「どういうことだ?」


「俺のいた場所じゃ、貴方がたの存在や貴方がたにまつわる話は有名なんですってことだ」


「つまり――」


目を細める彼に、櫂兎はその先を口にする。


「俺のいたところは、ここから千年ほど未来です」

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飛ぶ計画
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