「そう、ご用件が、あるのだとか?」
華蓮がここに来た理由、だ。表向き藍家の十三姫のことで、となっているが、俺にとってはこっちが本命である。一体何を言いだされるのか、恐ろしい。
いつでも逃げられるようにしておこうとだけ思い、椅子を引いた俺に彼は口を開いた。
「質にいれた旺季様の鎧を、あなたがお持ちなのだと伺いました。それを、買い取れないかと」
「あら。お譲りしますわよ」
もしや、用件とは、それなのか? え、それだけ?
「元々金子の工面など、私に相談頂ければ、貸しも致しましたのよ。養い子さんの国試受験のためだったのでしょう? 鄭悠舜、彼が宰相に就いたことは国としても良いことでしたわね」
「しかし、対価もなしに頂くわけには」
「元々、旺季様のものなのですから。元ある場所に戻るというだけですわ。
……それよりも、このことを旺季様はご存知ですの?」
「……いえ」
「まあ! では内緒で用意して驚かせるのですわね。旺季様、喜ばれますわ」
「だからこそ、対価を受け取って頂かなければ困るのです」
「……それも、そうですわねえ」
ここで俺がぽんとあげてしまっては、彼が用意したことにならない。
むむむ、と考え込む。だからといって、ここでお金を受け取ってしまうのは、何だか違う気がするとでもいうか。あと、どこでそんな金額を工面したのか聞きたいような聞きたくないような、だ。
「では、対価は、本日のお茶会と、甥の指導料で差し引き零と致しましょう。随分と、熱心にご指導いただいているようですし、こちらがお釣りを払わねばならない程ですわ」
「甥殿は、何と」
「うふふ」
意味ありげに笑ってみせれば、皇毅は目に見えて動揺した。
ああ、高笑いしたいくらいに満足である。普段感情の波を見せない彼の動揺、これはお金を払ってでも見る価値がある。というか、甥殿って、甥殿って。丁寧な物腰がまた、あり得なさすぎて面白い。大声あげて笑っちゃいたい。
「私の揶揄いにお付き合い頂いた御礼ですわ。それでも気が済まないというのでしたら、そうですわねえ。また今度、街で美味しいと評判の甘味屋さんで食べた餡蜜の感想などを、聞かせてくださいまし」
説明しよう! これはこのように言うことで、男一人で甘味屋さんに行かせようという作戦なのだ! 皇毅に甘味屋。似合わなさすぎて笑える。ああでも、甘いものはあまり得意ではないだろうか。
ともかく、話はそれでついたものとして進めさせてもらうことにする。
「ふふ。私が所有している、といっても、鎧はまだ質屋にありますの。代金をお払いして、置いていただいていますから……そうですわねえ。日を改めて、受け取りにいく形でも宜しいかしら」
「ならば、軒はこちらで出しましょう」
「助かりますわ」
それから、約束の日を定めて、用事は終わりということだった。ああ、よかった。女装がばれて剥かれるとかでなくてよかった。肉まんが無事でよかった。
「鎧が、必要になるのですね」
ゆるり、と微笑めば、皇毅は黙り込む。俺は、ただ微笑むだけだ。
「お茶のお代わりをお淹れしますわ」
紅いお茶を、甘いお茶を。
そして話題を変えて、近頃の旺季の話や、皇毅の話を暫く聴いた。
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