青嵐にゆれる月草 24
ざっと手早く書類を分類して、優先順位の高いものから手をつけていく。元から処理の必要もない余計なもの(もちろん、申請書や嘆願文の類だ)がわんさかあったので、それもすぐに終わる。
あとは、突っ返す時に添える当たり障りのない言葉を考えることや、流石に燃やしたらまずい位の相手の文には返事を出すことか。


「これ、珠翠の代筆として書いた方がいい? それとも、華蓮の言葉として?」

「代筆、でお願い致します。華蓮様の言葉では、ことが大きくなりそうですから」

「はーい。それにしても、たくさん来てるし、変に必死な感じだね」

「……王妃の席は一つだと、劉輝様は宣言されましたが、それが受け容れられたわけではございません。王の意志が固くとも、華蓮様に取り入れば、或いはと考えているのかもしれません」

「通りで。そんなこと、できるはずもやるはずも、ないのにねえ」


さっくり書き上げて、お布団と仲良くしている珠翠に文面の確認をして貰う。問題もないようで、本日の業務終了だ。


「珠翠。今夜は夕餉、邵可と食べる? 今日は元々、昼頃から府庫に行って、夕餉は邵可と一緒にって予定だったから」

「そ、そんな、急に…こんな姿ですし!」


寝台から飛び起き出て、おろおろする珠翠に俺は不敵な笑いを漏らす。


「ふ、ふ、ふ。仕事も片付けたんだ、出かけたって叱られやしないさ。邵可だって可愛い珠翠に会いたいに決まってる! 髪とお化粧は、今から始めれば充分間に合うでしょ。
ふふ、久し振りに髪触らせて貰っていい? 可愛く結っちゃうよー、ああでも珠翠の可愛さじゃ霞んじゃうかなー」

「も、もう! ……もう!」

「はっはっは〜」


いっぱいいっぱいな様子で言葉の出ないらしい彼女の髪を優しく梳いて、化粧台の前まで誘導した俺は、彼女の髪を結いはじめるのだった。







「おや、君に珍しい髪型だね。似合っているよ、珠翠」

「あ、あ、ありがとうございます!」


頬に手をやり、てれてれとする珠翠を見て、俺もにんまりしてしまう。なかなか頑張った甲斐があった。


「ふっふー、私がしましたのよ。昔では、髪の長さが足りませんでしたから、いつかできるほどの長さになった時にと思っていましたの。あいにく職務には向かない髪型ですけれど、可愛いでしょう?」


持ってきた料理を卓上に広げつつ、俺はふふんと鼻をならす。


「相変わらず器用だね、君は。
ああ、そうそう、夕餉をご馳走になってくると言ったら、秀麗がこれを持たせてくれてね」


そう言って邵可は包みを開く。中にはおやきのようなものが入っていた。美味しそうだ。


「朝から…気合をいれて、作っていたよ」

「生地相手に格闘でもして?」

「……本当に、君が疲れるわけだよね。大変な場所のようじゃないか」

「あはは」


まあ、足下を掬うのが大好きな人ばっかりだとでもいうか、ちゃっかり者が多いから、うかうかしていられないんだよね。
しかし、その様子なら。セーガ君は秀麗ちゃんを良くも悪くも構っているようじゃないか。彼女の成長っぷりに、彼はどんな気持ちだろう。穏やかではないだろうなあ。

さて、夕餉の準備も整ったところで食べ始めることにする。
秀麗ちゃん作のおやきのような何かは、濃いめの味付けがされた中の野菜が周りの生地と絶妙なバランスで、非常に美味しく頂けた。
食べ終えた後で、温めたらまた違った美味しさだったのではと気付いてしょんぼりしていたら、珠翠が自分のを半分くれた。


「なんて、なんて、優しい子に育って……」

「もう、大袈裟なんですよ、櫂兎さんは」


苦笑する珠翠と、温めてきた半分を半分こした。よんぶんこだ。邵可が羨ましそうに見てきたが、やらんぞこれは!

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空中三回転半宙返り土下座
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