食後。珠翠の淹れてくれたお茶をまったり飲む。なんと至福のひとときか。
「そういえば、ほらあの、鈴将といったかな、君、彼と知り合いだよね」
「え、うん。どうかした?」
突然邵可に鈴将の話を振られ、不思議に思いながら話を聞く。
「今日府庫に来ていたのだけれどね、窓際に座ったと思ったら、ずっとぼうっとしていてね。『さるとパンダの仲直り』だとか『十の過ち、百の謝り方』なんて本を借りて帰っていったよ」
「……あー」
仲直り難航中らしい。
「仲直りって、簡単だけど、難しいよね」
「君がそうだったものね」
「ぐ、……その件ではお世話になりました!」
「櫂兎さん、仲直りって…喧嘩でもなさったんですか?」
「私の弟とね」
珠翠は意外だったらしく、俺を見た。
「もー、あれだって変な意地張って拗れただけの話なの、俺のことはいいの! それより、鈴将の話だよ」
「ははは。そうだねえ、状況にもよるけれど、どちらかに非があるのならば、それはもう、相手に許されない限り、仲直りとはいかないだろうね」
彭民が、鈴将を許さないことには、ということか。誤解されて、弁明も信じてもらえなくて、一方的に責められて、かと思えばあっさり自己解決されて謝られて。彭民からすれば、どうしてあの時信じてくれなかったのかというところだろうか。
「なんか、許せない気持ちも、許されない苦しさも、なんだか分かるような気がするから、辛いや」
「その方々が、早く仲直りできると、いいですね」
「そうだね」
本当に。彼らにはきっと、時間か、切っ掛けが必要だ。
後宮まで戻ってきて、俺は結い方が少し特殊だからと珠翠の結った髪を外すのを手伝う。
「なんだか、外すのがもったいないですね」
珠翠が少し寂しそうに言うものだから、俺は珠翠のお願いなら何度だって結うよと親指を立てた。
「……ふふ」
くすぐったそうに、嬉しそうに、珠翠は口元を緩ませた。
「ありがとうございます、櫂兎さん」
「どうしちゃったの。そんな、改まって」
「いえ、私は、幸せだな、と」
――そう、こんなにも、優しさを与えられて、満たされて。悲しいくらいに幸せで、切ないくらいに幸せで。もう、充分に、私は幸せだから。幸せ、だったから。
珠翠は、微笑んだ。
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