すっかり日が落ちた頃、ようやく帰宅した秀麗は、「おかえり」と言う父の、側に積まれた大量の団子にぎょっとした。どこかでみた気もする光景だ。尤も、今回の団子はきちんと串に三つささっているようだったが。
(静蘭が持ち帰ってきたと思えば、父様も持ち帰ってくるし、そういえば、藍将軍にもご馳走になったわね。…お団子、流行ってるのかしら?)
「父様。このお団子、何方に頂いたの?」
「ああ、櫂兎だよ。彼が作ったのではないみたいだけれどね」
父曰く、今彼の邸に滞在しているお客人の作ったものらしい。素朴ながらもどこか上品な味は、最早芸術といってすらいい。料理人さんなのかしら、と秀麗は首をかしげた。茶菓子がこれなのだから、料理となると相当に違いない。
「ごちそうさま! ……あら、静蘭どうしたの?」
「いえ、少し。何処かで口にしたことがあるような、そんな気がして」
「ああ! 『懐かしい味』ってやつよねぇ」
静蘭は、そうですねとにこにこ笑った。
「ほんっとに……」
甘かったのね、私。と、何度目だろうか、胸の内で呟いた。
崖っぷちの自分の立場も、なんとかできると甘く見て、正しいと信じたままに突っ走って。他の人の世話まで焼いて、清雅のことは簡単に信じて疑ったこともなくて。お人好しと言われてしまうのも無理はない。
その結果が、これだ。努力の成果は全て掠われて、タンタンに助けられて。
「情けないわね…」
しゅんと沈みかけた気持ちをむりくり押し込めて、頬を叩く。――このままじゃ、ダメだ。
御史台では、今のままではいけないのだろう。長官であるというあの男の冷たい目を思い出し、少し身をこわばらせる。次いで清雅の馬鹿にするような嗤いを思い出し、バーンと近くの机を叩いて立ち上がった。
「絶対一泡吹かせてやるんだからー!」
「うわ、ヤル気充分……」
側にいた蘇芳はよくやるねえとでもいうように、口元をゆるめながら同じく椅子から立つ。
「その調子なら、これから御史台向かってもダイジョーブそう?」
「……今から?」
今日行くなんて、初耳だったが、そういえば「近いうちに」呼ばれるというようなことは言われていた気がする。今か、今なのか。
「やめとく?」
「いえ、行くわ」
怖がってなんていられない。秀麗はふんすと鼻息をあらげ、速足で御史台に向かって歩きだした。
「そうだタンタン! タンタンは御史台のこと、何か知らないの?」
秀麗もここ数日、御史台については調べてみたのだが、分かったのはどういう機関であるかということくらいで、現在の御史台がどのようであるか、具体的なことまでは分からなかった。
「さあ?」
「『さあ』ってねー、タンタン…。ほら、御史台でゴロゴロしてた時に、何かきかなかったの?」
「そりゃまー、多少は。ケド、最近結構変わったらしいし」
蘇芳はぽりぽり頬をかいた。
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