緑風は刃のごとく 66
「今日は人参を飾り切りにしてみましたー」


ぱかっと開いた重箱から、煮物が覗く。確かに、梅の花の形にきられた人参がちらほら見える。いつもながら、手が込んでいる。


「毎日気合い入りすぎじゃない?」


静蘭から小皿を受け取りながら、邵可は櫂兎に問いかける。


「手伝ってくれてる子が頑張ってくれるものだから、俺もつい張り切っちゃって」

「へー」


ことの発端は、もしかしてその子の料理練習でも手伝いだしたことにあるのだろうか。


「味は一緒ですけれど」


ツンとすました顔で静蘭が言っては、小皿に人参と芋をとる。櫂兎は苦笑した。


「味は変わらなくても、食べる時の気分で、味の感じ方って変わるもんなの」


だから、一緒に食べるだとか、綺麗に盛り付けるだとかって、いい調味料なんだよね、と櫂兎は片目を瞑ってみせた。
そんなものか、そういえば昔お嬢様に頂いた飴は妙に美味しかったななどと、昔のことを思い出しながらも、静蘭は梅の花を模した人参を一口かじる。


(……確かに、美味いが)


ばちりと櫂兎と目が合う。ニコリとこちらに微笑んだ櫂兎が、まるでこちらの思ったことなどお見通しのようで、静蘭は思わずそっぽを向いた。







食事を終え、夜の警護の持ち場に向かう静蘭を見送った櫂兎に、邵可は問いかける。


「君は、今日はもう仕事、終わりなの?」


このところ、定時を過ぎても、食事をすませたらすぐに仕事に戻ってしまっていたというのに、今日の櫂兎は珍しく、府庫に居座ってはまだ茶をすすっている。


「うん、今日は久々に早く帰れるかも」


嬉々としてそんなことを言う櫂兎に、邵可はこめかみをおさえた。


「早いといっても、もう日も暮れているのだけれど」

「ははは……秀麗ちゃんは、相変わらず帰るの遅いの? 忙しそうだよね」

「そうだね。今朝、暫く帰宅は遅くなりそうだって言ってたよ」


朝の、疲れを気合いでおして邸を出た秀麗を思い出す。あまり無理をしないでくれるといいのだが、なんとも心配だ。


「っていうと、まだかかりそうなんだな」


大変だな、と櫂兎が呟く。


「他の冗官の面倒もみているらしくてね…けれど、いい影響を受けられる相手と知り合いになったみたいだよ」

「へー」

「なに、まるで変なものでも食べたような顔して」


なんとも言い難い顔をする櫂兎を、邵可は怪訝そうに見る。


「や、別に……」

「ふうん?」


なにか、心あたりでもあったのだろうか。案外、その秀麗の言っていた人物は、彼が冗官であったときに、冗官室にでも行って知り合った人間なのかもしれない。


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空中三回転半宙返り土下座
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