切実さのこもったその声と、真摯な光を携えた瞳に、劉輝は微笑みを返した。
「ああ。誤解して悪かった」
「……ありがとうございます」
櫂兎は嬉しそうに、そう言って笑った。
劉輝には、その嬉しそうな笑顔が、何故だか、とても辛そうに見えた。
「そうだ、陛下。あとで珠翠を訪ねて下さい。素敵なお知らせがあるそうですよ」
室から二人で出て暫く歩いたところで、櫂兎がそんなことを告げた。
「しらせ…?」
疑問符を頭に浮かべた劉輝に、櫂兎は何も言わず、ただ何か楽しいことを企んでいそうな様子であった。
「わーい、こんばんは」
日も傾いてきて、橙色の夕陽の光が差し込む府庫で、目当ての二人の姿を確認した櫂兎はうきうき気分で声をかけた。蝋燭の用意をしていた邵可が顔をあげる。茶を淹れていた珠翠は手を止めて、櫂兎に微笑みを向けた。
「こんばんは、櫂兎」
「櫂兎さん、こんばんは。仲直り、できたそうですね」
にこにこ笑って問うた珠翠の言葉に、邵可が首を傾げる。
「仲直り?」
「喧嘩したわけじゃないんだけど。まあ、劉輝と、ちょっと色々あって。でも大丈夫、誤解は解いたから」
「君が華蓮だって言ったの?」
何気なく口にされたそのことに、櫂兎は固まった。それから、はっとしてばつが悪そうに伝える。
「それ、は、言ってない」
「そう。早く言っちゃえば楽なのに」
「簡単にいってくれるなぁ!」
櫂兎は頭をがしがしとかいた。
「そう単純に話せねえってこんなの。いつかは言わなきゃとは、そりゃあまあ、思うけれど」
「そう? 私は、君がわざわざ複雑にしてしまったように思うけど。
言えなくなる前に、話すんだよ。櫂兎がそれを、伝えたいと思うのなら尚更ね」
「……話すよ、またいつか。いつか、ね」
邵可は、本当かなと心配しつつも、この場はその話をそこまでにしておくことにした。代わりに、気になる話をふる。
「で、誤解って何だったの?」
「うん、俺と珠翠が一緒にいるところみて、俺らがそういう仲…えーと、恋仲だと思っちゃったらしい」
邵可はそれをきいて、ぽんとてをうつ。
「ああ。お似合いだものね、君達」
そんなことを さらりと言ってのけた邵可に、櫂兎は絶句した。
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