「あ、あ、あ……」
「ん?」
「あほかーッ! こっんなスクスク可愛く育った、自慢の美人な愛しい珠翠の隣に、こーんなパッとしない男いちゃあ駄目でしょ! こう、もっと男気ある…いや、心根優しい……うん、それで真面目で誠実な、珠翠を大事にしてくれるような男がなあ!
ああ居てたまるか! こんな可愛い珠翠をお嫁にやりたくありません!」
「櫂兎さん…」
困ったような嬉しいような表情で珠翠は苦笑いする。邵可は櫂兎を宥めるように、肩に手をやった。
「櫂兎…気持ちは分かるけれど、流石に親馬鹿が過ぎているよ。彼女ももう大人、それにね、昔みたいに私達だけの彼女とはいかないんだ。彼女は、たくさんの人に慕われ、愛される立場なんだよ」
諭すように話す邵可に、櫂兎は少しぐずって、むすっとした顔で言った。
「わかってるけど、それがさみしいんだよ。皆に珠翠が好かれていることも、嬉しいのに寂しいから困る」
それから、少し照れながら、へらりといつものように笑ってみせた。
「まっ、珠翠のこと一番好きなのは多分俺ですけどー?」
「おや、聞き捨てならないね。私も負けてないと思うけれど」
「ええー?」
二人の親馬鹿論争に、珠翠は顔を真っ赤にしておろおろ戸惑う。それをみた櫂兎の表情は崩れた。
「いじらしいな、可愛いなあ」
まるで子供にするように、優しく撫でる櫂兎に、さらに珠翠は真っ赤になって縮こまってしまった。邵可と櫂兎は、顔を見合わせて小さく笑う。邵可は顔を覆って俯いている珠翠の肩をたたいた。顔を上げた珠翠に、邵可は優しい声で語りかける。
「私も櫂兎も、君のことを大切におもっているんだよ、珠翠」
「うんうん! だからな、珠翠。困ったら迷わず俺らを頼ってな」
眩しく笑った櫂兎に、珠翠は泣きたい気持ちになった。それをぐっと堪えて、微笑みを返し、こくんと頷く。
「あーもう、かわいむぐっ」
「あ、あんまり言わないでください! 恥ずかしいです!」
これ以上言われてはたまらないと、珠翠が櫂兎の口に、お茶請けだった干し杏を押し込む。もぐもぐと櫂兎がそれを咀嚼している間に、珠翠は話題をずらした。
「似合うといえば、櫂兎さんには私より、北斗さんがお似合いだと思います」
「ふぐっ」
口に含んだ杏を喉に詰まらせかけ、櫂兎はむせた。
「オレハオトコデスヨ…?」
「ははっ、でも分かる気がするね」
「ぶっ」
邵可の言葉にまたしても櫂兎は息を詰まらせた。
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