「華蓮は、確かに争いごとは嫌いだと言っていた」
先ほどまでの話がきかれていないつもりだった梦須とリオウは、バツが悪そうに揃って眉を下げる。それが面白かったのか、劉輝は小さく笑って、それから少しだけ口を尖らせた。
「訊いてくれれば、余に分かることなら答えたのに。水臭いぞ!
まあ、余も、梦須がポロっと華蓮のことを話してくれるかと思って、聞こえていないふりをしていたのだが。しかし、梦須もなかなか口を割らないな」
「うおーっ、人を嘘つきか何かみたいにー! 本当に知らないのに!」
すんすんとわざとらしく泣き真似をする梦須に、劉輝はジト目を向けた。
「だって怪しいのだ」
「酷い! うわぁん劉輝に何か言ってやってくれようリオウー」
そう言って椅子から立ち上がり、泣きつくように抱きつきかかった梦須の腕を、リオウはさっと避けた。
「気持ち悪い。……怪しいのは事実だろう、お前が悪い」
「ふえーん、俺は謎に満ちた男をウリにしてるのにぃ」
梦須はわざとらしい泣き真似をしつつ、すごすごと椅子に座った。それを確認して、仕切り直すように劉輝はコホンとひとつ咳払いしてから、話を始めた。
「華蓮は、確かに争いごとは嫌いだと言っていた。しかし、自分以外の人間が、しかもたくさんの人達が、争いに巻き込まれることはもっと嫌いだと言っていた」
そう言う劉輝の瞳はどこか懐かしげで、そしてさみしげな色を含んでいる。
「華蓮は、とても真っ直ぐで、とても強かったのだ。だから、常に誰かを守る側だったように、思う。
困っている者は特に放っておけない性質だと、自分でも言って笑っていた。
……きらきらしていると思った。とても、綺麗だった、眩しかった」
そうして遠い目をする劉輝に、梦須はいつもの似非っぽい笑顔を浮かべる。
「ひひ、そりゃ眩しいわなァ。
じゃ、劉輝がお人好しなのはその女官譲りなわけだ」
「……余は、華蓮と違って守れないのに守りたがるお人好しなのだと思う」
梦須は目をぱちぱちとまたたかせて、それからまたニィと口端をつりあげた。
「へー、もうちょっと自信持てばいいのに。
あー、お前褒められ慣れてないだろ、特に幼少期に貶されたり否定ばっかされてきたんじゃね? もしくは、成功経験が極端にないとか、大きな失敗をしたとか。なんにせよ苦労してるなぁ、ウンウン」
腕を組んで、神妙な面持ちで頷く梦須に、戸惑いを浮かべた劉輝と、呆れを浮かべたリオウ。
もちろん梦須は、彼らの様子なんて知ったことではないとでも言う風に、いつもの彼のペースを突き通す。劉輝と視線を合わせては、にこっと笑って、一つ、告げた。
「だいじょーぶ、お前は守れるよ。ほんのちょっと覚悟を決めるだけだ。ほーれ、自信持てってー」
その声は穏やかで、どこかストンと劉輝の中に落ちてきた。
自分でも気付かぬうちに溜まっていた胸の内の不安感が、ふっと溶けてなくなっていくのが分かった。自然と湧いてくる前向きな気持ちに、劉輝は表情を明るくする。
しかし、それもつかの間。背中をばしんばしんと音をたてるくらいに叩く梦須に、流石の劉輝も顔を顰めた。
「痛いぞ、梦須」
「おっ、すまん」
梦須は悪いと思っているのか思っていないのか、分からない態度でへらへらと笑った。
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bkm