「で、実際どうなっているんだ」
ご機嫌で読書にふける劉輝に気付かれない程度の小声で問うたリオウに、梦須は同じく小声で告げる。
「いや、本当に華蓮って女官には会ったことないぜ、俺ぁ。朔羅…えと、妻が昔、少し縁あったとかで、それ以上は何も」
そう、『華蓮を名乗る女官』と梦須は一度も会ったことはない。嘘ではない。ずるい、とは言われてしまいそうだが。
「……あの女官の話は、自分も聞いたことがある。その女官と先王とは深い仲だったと、羽羽様がおっしゃっていた」
「ぶっ」
吹き出し、むせる梦須に劉輝が書物から顔をあげる。慌てて、なんでもないと手を振った。劉輝が書物に視線を戻すのを確認してから、リオウに小声で尋ねる。
「それ、マジ?」
「一部では有名な話で、王の室を訪ねる彼女の姿を確認している者もいたらしい。最も、今となっては古参の上位官職者しか知らないことのようだが」
「へ、へぇ…」
梦須には、震える声でそう相槌うつのが精一杯だった。
あいつそういう趣味なのかなあ。元部下がカマカマしいところなんてのは、一度として見たことがないが、……うん、家庭的な面はあるかもしれない。
しかし、少なくとも、あの血の覇王相手というのは見る目がないというか、趣味が悪すぎる。
そんなことを思いながら、梦須は茶を啜った。なんとも、櫂兎本人が知れば涙し心折れそうな誤解である。
「羽羽様自身は、不思議なことに彼女と直接会うことはなかったらしいが。……いや、それも今思えば、敢えてだったのかもしれない」
「へー、ナニ? 仙洞省の人間と接触すると、お熱い噂があるだけに、王との婚姻話があがっちゃうかもしれないから?」
顎に手をやり、にやりと目を細める梦須に、リオウは少しためらいがちに言う。
「かも、しれない。いや、話が実際にあがるかどうかは関係ない、接触したという話が少しでも囁かれることが、彼女には問題だったんだろう。
争いごとは避ける主義だったようだ。特に、後宮に権力や派閥争いが絡みそうになると、早急に手を打って我関せずの姿勢を崩さない」
「けど、王位争いのときには、中立とかいいつつ、実質正面から歯向かってたんだろ?
争いの真っ只中にあるはずの後宮が宣言しちゃうんだから、まぁ、お笑い種だぜ」
ぱたり、という音に、梦須が顔を向ける。どうやらそれは、劉輝が書物を閉じた音だったらしい。劉輝は梦須を見つめて、ぽつり、と口を開いた。
「華蓮は、確かに争いごとは嫌いだと言っていた」
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