劉輝は、思い出したという風にエヘンとひとつ咳払いして、念をおすように言った。
「一応、言っておくとな、華蓮は別に、父上とは恋仲ではなかったぞ。一番の友人だとは言っていたが」
「……へー」
「そうか」
あまりにあっさりした二人のその反応は、劉輝には予想外だったらしい。
「待て、どうしてそんなに反応が薄いのだ!?」
「いや、そりゃ、その言葉が真実か、確かめる術は無いしィ」
「その女官も、訊かれれば、そう言わざるを得ないだろうからな」
恋仲なのが事実であれば、余計にそれが表沙汰になるような、ましてや公言するようなことはしないだろう。
「嘘ではないというのに…ぐすん」
「おまっ、それはさっきの俺の台詞だぞ。
しかしまあ、なんだ。それってさ、その華蓮って女官と仲良かった人間にきけば、実際のところどうだったのか分かりそうじゃね?」
「おお、名案だな」
「で、誰にきくつもりなんだ」
できるのか、と問うようなリオウの視線に、劉輝は黙った。華蓮と仲の良かった人物、と言われても、劉輝は彼女と二人きりで過ごすことが多く、彼女が他の人間と親しくしている姿はみたことがない。
劉輝の悩ましげな表情をみて、梦須が問う。
「劉輝、お前とその女官との、共通の知り合いとかっていなかったの?」
共通の知り合いと言葉を換えたところで、当てはまる人物は浮かんでこない。彼女について、自分はこんなにも、知らないでいたのか。……いや、
「せいえん、あにうえ……?」
彼女は、兄のことを、知り合いだと話してはいなかったか。
そして、彼が、劉輝の元から居なくなった時。『おつとめ』に、行った時。
ふと、誰かの姿が脳裏をよぎる。あの時、華蓮と劉輝、そして兄以外に、もう一人誰かが、いた? あれは、誰ーー?
「お、いいねー。死んだ人間の霊呼び出してきいてみっか? リオウ、できる?」
おちゃらけた梦須の声に、劉輝は意識を引き戻された。手の届きそうで届かなかった記憶がもどかしいが仕方が無い。
梦須の提案に、リオウが溜息を吐く。
「阿呆か」
その顔には「誰がするか」と書いてある。
そもそも、兄は死んではいないので、霊として呼び出せないとは思うのだが、そんな話はここではできない。
ここまできて、一人重要な人物を忘れていたのに劉輝は気付く。
「邵可も! 邵可も、知り合いだったようだぞ」
その名をきいた途端、梦須の身体が跳ねた。心なしか、どこか顔色も悪い気がする。
「どうした? 大丈夫か?」
「ダイジョウブダヨー、俺は元気百倍、百人乗っても大丈夫」
駄目みたいだった。
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