緑風は刃のごとく 49
「梦須は華蓮を知っているのか?! 今、華蓮はどこにいるのだ? どうして、梦須がこの茶を、紅茶を、淹れられるのだ?」


あまりの剣幕と、立て続けの質問に梦須は目を白黒させる。ーー彼女について、ききたいのはこっちだ。梦須は何も知らない。きいていたのは噂ばかりで、何一つ彼女に関して正しいことは知らないのだ。


「……あー、ええと、ごめん劉輝。俺は劉輝の望むような答えは返せねえよ」


だって本当に知らねえんだもん、と梦須が言えば、劉輝は少し泣きそうな顔をした。


「すまん、状況が分からないんだが、この紅茶、華蓮って女官も淹れてたわけ?」

「うむ」


相変わらずしょぼんとしたまま、劉輝はこっくり頷く。


櫂兎と華蓮。紅茶という共通点、そして風呂場にあった女性物の服。


(ひょっとすると、華蓮ってのは……)


梦須の中で、一つの可能性が思い浮かぶ。


「その華蓮って女官に淹れて貰った以外で、劉輝は紅茶を飲んだことがあるか?」

「……無い、が、それがどうかしたのか?」

「いや、ちょっとした確認だ。…そうか、無いか」


当たり前だ。本来なら、あるわけもないのだ、こんな代物は。用意できるのは、梦須の知る限り、あの器用貧乏の元部下だけだ。


(……マジかよォ、嘘だろー、いくらなんでもこれって、いや、ないわー。ないわァ)


しかし、信じたくない気持ちとは裏腹に、梦須には思い当たることが多々あった。

仕事が早く終わると、まるで何処かへ、誰かの元へ急ぐように帰った彼。仕事中にも、たまに誰かと会うからと、ことわって抜け出していた彼。
件の女官の噂があった時期も、重なっている。


「…俺は華蓮なんて女官には、会ったことも話したこともない。悪いな」


紅茶だけのことならば、元部下の関係者、というのも考えられる。しかし、そう片付けるには、あまりにも偶然がすぎる。関係者候補としての人物も、彼が女性と縁遠いせいで一切浮かばない。


(なんか溺愛してるっぽい妹サンも、本人曰く遠いところにいて長く会ってないらしいしなあ)


あの鍵のかかった部屋は、今思えば彼の妹のための部屋だったのかもしれない。

49 / 97
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -