その日の夜も、毎日恒例のお茶会、もとい劉輝のお悩み相談会が府庫では繰り広げられようとしていた。
「あ、今日は俺がお茶いれるから、劉輝はリオウに相談しとけ、な?」
この数日間で、いつの間にやら名を呼ぶ仲だ。そんな変化に苦笑しながら、梦須は湯の準備をし始めた。
(蒸らすのは…何秒だったっけなあ、まあいいか)
櫂兎邸から持ち込んだ紅茶を淹れ終わり、湯のみを盆にのせて梦須が戻ってくると、劉輝はすっかり意気消沈して机に突っ伏していた。
「また何か言ったのか」
「言った」
「言われたのだ〜。うう、梦須…いや、今回は梦須の助言には頼らぬぞ! 自分で何とかしてみせるのだ!」
意気込む劉輝が微笑ましく、梦須は小さく笑った。なんとも頼もしいではないか。
「はっ、梦須は何か、悩み事や困りごとはないのか? 相談に乗ってくれるぞ! リオウが!」
「お前が乗ってくれるんじゃないのか!」
思わず梦須は突っ込んでいた。リオウも、渋い顔をする。
「こいつが相談も何も、乗る義理はないし、第一悩んでいることなんてないだろう」
「うわー辛口でやんの。まあいいや、相談っていうより、ききたいことがあってさぁ。リオウじゃなくて、劉輝のほうに」
「む? 答えられることなら、何でも任せるといいのだ」
にこにこと、人のいい笑顔でいう彼は、相当のお人好しだ。梦須は持っていた盆を机の上に置いて、近くの椅子に座った。
「ありがとさん。ま、冷める前にほれお茶お茶。飲みながらきいてくれよ」
湯のみを二人に渡し、梦須は何と切り出そうか少し思案する。ほんの興味本位な質問なだけに、変に相手を不快にさせないといいのだが。
「昔の噂でさー、劉輝がまだちっこい頃? 付きの女官してた人、いただろ。その人が、あの先代筆頭にして、凄腕の女官だとか何とかきいたんだけど」
ちらり、と劉輝の方をみると、口につけた湯のみを、固まったようにじっと見つめている。口に合わなかったのだろうか、と梦須が謝ろうとしたときだった。
「華蓮……」
ぽつり、と劉輝は呟く。
「そうそう、その華蓮って人についてなんだけどー」
劉輝は急に立ち上がる。ガタンと音をたてて椅子が倒れた。
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