緑風は刃のごとく 46
「そういう考え、まあ嫌いじゃねえよ」と隼が告げると、櫂兎は表情をほころばせた。

随分と、隼が櫂兎についてきいていた話と違う。
人の良さそうな顔で愛想撒き散らすのに反して、やることはえげつなく徹底的ということで、もっと裏表のある人間の印象だったのだが、これではただの『いい人』だ。
ここまで含めて演技の可能性もあるが。……根拠はないが、自分の勘が演技ではないと告げていた。

それと同時に、遠い日の記憶がふと脳裏を掠め、隼は思わず訊いていた。


「あんたの親戚に、もしかして、華蓮って人がいないか?」


華蓮、の単語に櫂兎は目を見開いた。


「どうして、そんなこと思ったんですか?」

「……目が、瓜二つだ」


独特な色をした、彼のその瞳が。真っ直ぐな色が。捨てたはずの過去、ほんの短い期間、共に旅した気高い女性と。どこまでもそっくりだった。


「失礼ながら、彼女とはどこで?」

「……それは、言えない。ただ、彼女が貴陽に帰る道を送っていったことがあるんだ」

「そうでしたか。……おぼえて下さっていたんですね」


櫂兎は、まるで自分が体験したかのように、嬉しそうに呟いた。眉を寄せた隼の気を紛らわせるように、櫂兎は告げる。


「華蓮は私の叔母です。いやあ、こんな偶然があるものなのですね。彼女にとって世界が狭すぎるだけかもしれませんが」

「はは、そうに違いない」


どおりで、同じ色をしていたわけだ。言われてみれば、顔立ちもどこか似ている気がする。
じろじろと顔をみていると、気に障ったのか櫂兎は顔を逸らしてしまった。


「まあそんなわけで、これからよろしくお願いします。夏にはきっと、貴方もここから出ることになるでしょうし。忙しくなりますよ」


櫂兎はそう言って、話を終えて去っていった。その背中が見えなくなるのを確認して、隼はつぶやく。


「親戚かあ。お芋姫の、なあ…」


彼女は元気だろうか、訊けばよかったなというところまで考えて、首を振る。それを気にするのは司馬迅、そしてそれは、既に死んだ人間だ。どうにも、調子を狂わされてしまったらしい。今の自分は隼だと、いま一度自分に言い聞かせた。

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空中三回転半宙返り土下座
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