結局、そのあとも部屋の中を幾度も調べてみたものの、梦須にそれ以上分かることはなく、その部屋を退散することにした。もちろん、部屋の鍵をしめておくのは忘れない。
「あっ、父様! どこにいたの、姿がみえないものだから、また何処かに出かけてしまったのかと思ったわ」
母屋の方へ戻ってきた貘馬木をみつけた沙羅が声を掛ける。どこにいたかの問いには素直に答えるわけにもいかず、梦須ははぐらかす。
「まぁちょっとなー。それより沙羅、この間沙羅が淹れてくれた紅茶ってさ、何処にあるか教えてくんない?」
「え? うん、いいよ任せて!」
沙羅は、こっちよ、と手招きした。沙羅の後を追って、ついたのは台所だった。沙羅は椅子をもってくると、それを踏み台にして戸棚の上の方に手を伸ばした。
「あれ、ないわ。隣だったかしら?」
中を覗き込んで、見当たらなかったらしく沙羅が首を傾げる。椅子を動かし、いくつか別の戸棚をあけたところで、沙羅は声をあげた。
「あったあった。ここよ、父様」
「ありがとう、沙羅。それ、とってもらってもいい?」
「はい、父様。飲むの? 淹れようか?」
椅子からおりて、こちらをキラキラした目で見つめてくる沙羅に、梦須はだらしなく頬をゆるめた。
「じゃー、飲むつもりじゃなかったんだけど、せっかくだし淹れてもらっちゃおうかなー」
「はーい!」
楽しそうに湯の準備にとりかかった沙羅を、梦須はにこにこと眺める。ふと、視界に入った小さな筒を手にとってみた。空だ。丁度いいので使わせてもらうことにしよう。
「沙羅、お茶の葉、ここにもいれて?」
「はーい」
沙羅は手際よく、こぼさないように丁寧に匙で移していく。適量になったところで制止し、蓋をした。
「それ、何に使うの?」
不思議そうな顔をする沙羅に、梦須はニヤリとする。
「ん、一口飲ませてやろーと思って」
「そのお茶会の人に?」
「そうそう。あっちにばかり、色々と用意してもらっても悪いしな。かといって、其処らのお茶じゃ味気ない。そんでもってこれなら、飲んだこともないだろうから」
「棚夏さんのお茶だけどね」
沙羅はくすくす笑いながら、急須に茶葉をいれ湯を注ぎ込んだ。
「あ、沙羅、母様も呼んでくる」
「おお、いってらっしゃい」
沙羅はそう言うと急須を一旦置いた。台所を元気良くかけていく沙羅を見送りながら、梦須は湯のみを机の上に一つ追加した。
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