緑風は刃のごとく 43
結局、そのあとも部屋の中を幾度も調べてみたものの、梦須にそれ以上分かることはなく、その部屋を退散することにした。もちろん、部屋の鍵をしめておくのは忘れない。


「あっ、父様! どこにいたの、姿がみえないものだから、また何処かに出かけてしまったのかと思ったわ」


母屋の方へ戻ってきた貘馬木をみつけた沙羅が声を掛ける。どこにいたかの問いには素直に答えるわけにもいかず、梦須ははぐらかす。


「まぁちょっとなー。それより沙羅、この間沙羅が淹れてくれた紅茶ってさ、何処にあるか教えてくんない?」

「え? うん、いいよ任せて!」


沙羅は、こっちよ、と手招きした。沙羅の後を追って、ついたのは台所だった。沙羅は椅子をもってくると、それを踏み台にして戸棚の上の方に手を伸ばした。


「あれ、ないわ。隣だったかしら?」


中を覗き込んで、見当たらなかったらしく沙羅が首を傾げる。椅子を動かし、いくつか別の戸棚をあけたところで、沙羅は声をあげた。


「あったあった。ここよ、父様」

「ありがとう、沙羅。それ、とってもらってもいい?」

「はい、父様。飲むの? 淹れようか?」


椅子からおりて、こちらをキラキラした目で見つめてくる沙羅に、梦須はだらしなく頬をゆるめた。


「じゃー、飲むつもりじゃなかったんだけど、せっかくだし淹れてもらっちゃおうかなー」

「はーい!」


楽しそうに湯の準備にとりかかった沙羅を、梦須はにこにこと眺める。ふと、視界に入った小さな筒を手にとってみた。空だ。丁度いいので使わせてもらうことにしよう。


「沙羅、お茶の葉、ここにもいれて?」

「はーい」


沙羅は手際よく、こぼさないように丁寧に匙で移していく。適量になったところで制止し、蓋をした。


「それ、何に使うの?」


不思議そうな顔をする沙羅に、梦須はニヤリとする。


「ん、一口飲ませてやろーと思って」

「そのお茶会の人に?」

「そうそう。あっちにばかり、色々と用意してもらっても悪いしな。かといって、其処らのお茶じゃ味気ない。そんでもってこれなら、飲んだこともないだろうから」

「棚夏さんのお茶だけどね」


沙羅はくすくす笑いながら、急須に茶葉をいれ湯を注ぎ込んだ。


「あ、沙羅、母様も呼んでくる」

「おお、いってらっしゃい」


沙羅はそう言うと急須を一旦置いた。台所を元気良くかけていく沙羅を見送りながら、梦須は湯のみを机の上に一つ追加した。

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空中三回転半宙返り土下座
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