緑風は刃のごとく 41
「この前風呂場で着替え借りたときに、変わった女物の服たくさん見つけたんだけどさー」

「がふっ」


梦須に囁き告げられた内容に、櫂兎は、変な咳混じりの声を出したかと思うと、ごふごふと咳き込んだ。明らかに動揺している。予測できない展開というものに、どうやら彼は弱いらしい。


「あんまりにも変わってるもんだからー、『隠し花菖蒲』だっけ、もしかしてあの服全部そうなんじゃねえのって思ってー」

「もうどうして貴方そんなに目敏いんですか!」


梦須のほとんど勘のような推測は、やはり当たりだったらしい。
しかし、鎌かけにほいほい乗ってしまう彼は、どうにも諦めがよすぎるところがある。元々隠し事は苦手なのかもしれない、その割に秘密を抱えすぎていそうな気がするが。


「ひひひ、このむっしゅー様にかかればお前の秘密の一つや二つ、暴くことなど朝飯前」

「お願いだからやめてください」


泣き声にもにた声で、目頭をおさえている元部下に、梦須は笑顔をはりつけたまま訊く。


「あんなに大量に女物の服、何? 趣味なの?」

「まあそんなところです」

「フーン」


隠し花菖蒲印の熱狂的な愛好者…にしたって、あれは女物。かつ、展示されるでも厳重に仕舞い込まれるでもなく、普通の衣服のようにたたみいれられていたあたりから、観賞用の可能性は限りなく低い。
と、なると、実用目的で使用されているとみるのが自然だ。あとはご察し、おおっぴらにはしたくないタイプの趣味に違いない。

ふと過去に、楊修が櫂兎に口紅を塗ろうと躍起になっていたことを思い出す。
楊修の感性は確かで、それは元部下に口紅が似合うということを意味していて。

(なーんだ、似合うんならいいじゃん。ま、そういうことなんだろ)

梦須は櫂兎の肩に手を回した。


「で、俺ってば面白いことはみんなに教えたくなっちゃうんだけど、さすがにこの件は元部下が可哀想だし、でもウズウズするし、どーしよっかなぁーって悩んでるんだよね〜」

「うわ、悪魔だ…悪魔がいる。で、何が狙いですか」

「話が早い、さっすがー。
いや、ね、お前んちに滞在するの、ちょーっと、ほんのちょーっと、長くなりそうなんだよねぇ」


いいよね? と言わんばかりの梦須の顔に、櫂兎が泣く泣く承諾の言葉を吐く。ちょろくて助かるなと思いながら、梦須は肩に回していた手を外した。


「あ、あとさ」

「まだあるんですか!? 鬼! 鬼!」


涙目で睨んでくる櫂兎を梦須は宥める。


「たいしたことじゃねえっての。あのお前んちにあったお茶、あれ。ちょっと貰うぞ、ってか貰ったぞ」

「ああ、なんだそんなことですか。どうぞ、邸のものは、鍵のかかっている部屋以外のものなら使って頂いて結構ですから」


彼にとって、あの茶はそこまで貴重なものではなかったらしい。少し意外だった。


「ありがとさん。鍵のかかった部屋のものは?」

「もちろん駄目です」


元部下はそうして「ふざけないでください」、と爽やかな笑顔で辛辣に言い放ったのだった。

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空中三回転半宙返り土下座
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