「……変わってる。欲のねぇ奴だなァ」
どこか呆れにも似た息を吐いた梦須に、劉輝はムッとした。
「む、私にだって欲しいものはあるぞ。ただ、それが限りなく難しいから、色々とこうして悩んでいるわけで」
ごにょごにょ、と口ごもった劉輝に、梦須は成る程なぁと意地悪げに口端をつりあげる。
「欲の無い奴は悩まないってか? まぁそうかもなー。よし悩め悩め」
ニコニコと笑顔を浮かべながら、さっきとは打って変わったことを言い出す梦須に劉輝は焦った。
「まっ、待ってくれ、梦須は私のお悩み解決に乗り気だっただろう! どうしてそうなる」
「気が変わっちゃった」
そう言って、梦須はてへ、と舌をだして片目を瞑ってみせた。
「なぁーッ」
劉輝がショックに頭を抱えたのをみて、リオウは梦須に呆れた風に言った。
「……おい、あまりからかってやるな」
「はっはっは、いや、反応が面白いもんだからつい。すまんすまん。本当いい奴だなー」
本当に、いい奴だ。あの王とは大違いの、いい奴。
(……いい奴が、いい王になれるってわけじゃあないケド)
しかし、少なくとも、梦須の中での彼に対する好感度はそれなりに上がってしまっていた。
夜のお茶会も済んで王城から元部下邸に向かっていた梦須は、ぱったり元部下に出くわした。
「うおっ、お前こんな時間に出仕してんの?」
仕事熱心すぎて引くわー、なんて冗談をとばした梦須に、櫂兎はどこか諦めにも似た遠くをみる目をした。
もしかすると本人もこの早朝出勤は望んでいないのかもしれない。いや、きっと望んでいないに違いない。
「おはようございます。今日は少し、個人的にやることがありまして」
「へー、まあ頑張れ」
げんなりしている櫂兎の肩をすれ違いざまぽんと叩いた梦須は、ああ思い出したと数歩後ろに戻る。
「今時間ある?」
「まあ、一応」
何の用だと訝しむ櫂兎に、梦須は声を潜めて、囁き告げた。
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