緑風は刃のごとく 38
茶を飲み終え、梦須の朝食を並べ始めた朔羅は、まだ茶をすすっている梦須に微笑みながら言った。


「不思議な味ですね、そのお茶。初めて飲みましたけれど、私に縁がなかっただけで普通に流通しているものなのかしら」


梦須は何か遠いところのことを考える風に、目を閉じて言った。


「んあ…まあ、してないだろーなぁ」

「『こうちゃ』ってかいてあったよ!」


沙羅がえへんと胸を張り言うのに、梦須はよく読めたなあと沙羅の頭を優しく撫でた。
それから梦須は、二人に言っておかなければならないことを、忘れないうちに言うことにした。


「あー、沙羅、朔羅。ええ、こほん。目的は昨夜済ませてきたにはきたんだけれど、もうちょっと紫州に滞在することになりそうなんだ。
二人とも、いいかな」

「大丈夫ですよ」


朔羅はすぐに返事を返す。沙羅も、その場でぴょんと元気よく跳ねて言った。


「沙羅も大丈夫! むしろ大歓迎だよっ、ふふ、作れるお料理増やして帰るんだー」

「あらあら、私も負けてられませんね。新しい献立を考えてみようかしら」


腕をまくる朔羅に、きっと自分が近々、味見役第一号になるんだろうなと思いつつ、梦須は残りの茶を一気に煽った。


「ところであなた」


朔羅に呼びかけられ、梦須はからになった湯のみを置いて彼女をみた。


「ん、なーに?」

「滞在理由を教えて下さいませんか?」

「もちろん」


梦須はどこか楽しそうに言った。


「府庫で会った誰かさんに、またお茶しようっていわれてるんだわ、これが」








「よー、どうも。こんばんは」


府庫に訪れた梦須を、先に来ていたらしいその人物は、目をぱちくりさせて見た。


「こっ、こんばんは、なのだ」

「何、驚いちゃって」


梦須をまじまじとみていたその人物ーー劉輝は、少しきまりが悪そうにした。


「……本当に来てくれるとは、思わなかった」

「なーんだ、なら来なくてよかったなあ」

「いや、来てくれて嬉しいぞ。ありがとう」


わざとらしく冗談混じりの嫌味を飛ばすと、面白いまでに慌てて、真面目に返してくる。からかってしまったな、なんて思いながらも梦須は変わらず軽い調子で対応する。


「はは、どーいたしまして。……あの少年、ええと、リオウは?」


きょろきょろとあたりを見回す梦須に、今日はまだきていないことを劉輝は伝える。梦須はふぅんと一言返したっきりで、適当に書物をみつくろっては、窓際の机の方で読み始めた。
劉輝は、少し悩んだ後、机をはさんで梦須の正面に座ることにした。

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空中三回転半宙返り土下座
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