重い門が開き、外で待たされていたらしい吏部の彼らは、やっとかという顔をして細く息を吐いた。視察と査定に、吏部からは三人の人員が割かれていた。ここ、御史台に来たというそれだけで、三人の顔には既に疲れが浮かんでいる。
そんな彼らも、門の内にいた櫂兎に気付いては目を見張り、三者三様の反応を示した。どれも好意的なものであったのは、喜ばしいやら気恥ずかしいやらである。そもそも、覚えておいてくれたという時点で嬉しい。
とはいえ、ここで立ち話をするわけにもいかず、櫂兎は一つ挨拶をして、御史と共に御史台の中へと彼らを案内した。
ちょうど共同作業室にきたところで、待ち構えていたかのように皇毅は現れた。簡単ながらも打ち合わせがあるらしく、櫂兎と御史は、通常業務に戻るよう告げられた。……結局最後まで御史の名が思い出せないまま、櫂兎は彼の背を見送ったのだった。
副官室で一人、その査定とやらの時を待ちながら作業をしていると、外からこつこつと窓を叩く音がした。
「……何ですか」
窓を開けた櫂兎に、外から顔を覗かせた晏樹は、とろけるような笑みを浮かべた。
「さて、何の用だと思う?」
「……ろくな用じゃないのだろうなあと、思います」
「君も言うようになったよねぇ」
どこかとぼけた調子で晏樹が言う。
「まあ、大した用じゃないけど。皇毅に、僕が呼んでたって言っておいて」
「わかりました」
本当にちょっとしたことだった。晏樹はそれだけ言うと、特に何をするでもなくその場を去る。……おかしい、いつもなら早く帰れといくら言っても、一度来たらだらだら長居するというのに。
それも、次の瞬間櫂兎は納得いくことになる。
コツンと内扉の叩かれる音がして、扉の方をみれば、長官室から顔見知りの吏部の官吏が一名、副官室へとやってきた。
名は重陽(ちょうよう)、確か楊修と同時期に吏部に来たから、吏部ではなかなかの古参のはずだ。黎深が突然仕事をした日には、吏部の近くの庭の池で釣りをするのが彼の恒例になっていたおぼえがある。
晏樹はどうやら、この訪問者を察知していなくなったらしい。
(センサーでもついているのかあの人は…)
あながち、あり得そうに思えてしまうのが困る。
重陽の後ろから、皇毅も遅れて副官室に入ってくる。櫂兎はそそくさと二人の椅子を用意した。三人が席についたところで、重陽は口を開く。
「さて、立会いの長官殿もいらっしゃいましたし、これで揃いですね。では、始めましょうか」
重陽はそうして、にっこりと笑った。
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bkm