緑風は刃のごとく 18
櫂兎がどう答えるべきかと思案しているうちに、目の前の御史はべらべらときいていないことまで話し始める。


「きいた話じゃ、前副官は極秘任務中に亡くなったそうじゃないですか」


ちょっと待て、誰からきいた話だ。

あまりの内容にずっこけそうになるのを堪え、櫂兎は続く言葉を聞く。


「その任務の副責任者が、任務諸共副官を引き継いだってきいてますけれど」

「へ、へぇ…そうなんですか。そのようなことは、私は一つも聞いておりませんが」

「そうなんですか? まあ、吏部の視察ついでに新任の副官の査定に人が来るって話自体、あまり明るみにはなってませんものね。私も共同作業室で偶然零れきいた口ですし」

「偶然、ねえ…」


偶然きいたにしても、たちの悪い噂である。


「実は前副官が死ぬように副責任者が仕組んだんじゃないかって噂もありますよねえ、どうなんでしょうね、実際」


櫂兎の反応を伺うように視線を向ける御史に、櫂兎は変わらぬ笑顔で応対した。

実際も何も、そんな事実は最初からどこにもない、想像力豊かにも程があるだろう。あまりにも一人歩きしすぎているトンデモな噂、一体どこからでたというのか。


「噂は噂、根も葉もない話であって、信じるに値しません」

「しかし、火の無い所に煙は立たぬと言いますよ。事実、噂になっていた新副官の査定に、吏部から人が来ていますからね」


自身たっぷりに言う目の前の御史に、櫂兎は少し考えるようにして目をつむり、やがて口を開いた。


「さて、その吏部の方は、本当に新任の副官を査定しに来たのでしょうか?」

「……その考えは、ありませんでした。私にはそれが何なのかは分かりませんし、吏部から来た人物の目的が、新任の副官査定であることを確かめる術はない。棚夏さんも、意地が悪い」


御史は「自分だけ知っているからってー」と、愚痴を垂れては眉を下げた。


「誰なんです? ね、ね? 減るもんじゃないですし、教えてくださいよ」

「秘密事項です」


櫂兎はきっぱりと言い切る。変に取り繕ったり話をするより、言わない態度を示した方が何も話さないで済む。
しかし、彼の件で懲りたというべきか。後ほど、御史台での副官に関する噂話もきちんと拾って、上手く対策なり嘘の情報ばら撒くなり、しなければならないなと櫂兎は内心頭をおさえた。


「うーん。棚夏さん、意外と口が固い」

「伊達に補佐はしていませんよ。さて、もうすぐ門です、そろそろ世間話もやめにしましょう」


にこりと笑む、櫂兎の側には実際門番がおり、少し離れたところに固く閉じられた門がある。

門番に話しかけ、門の外に居るという人についての情報交換を一通り終え、長官の許可もあったことを告げる。


さて、大分待たせてしまったが、吏部の方達を歓迎するとしよう。

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空中三回転半宙返り土下座
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