ここ最近の『御史台副官』に関する噂をまとめていた彼は、その内容に頬を引きつらせた。
・御史台で長年空席だった副官が遂に就任とのこと
・御史台の者ですら誰がついたかわからない
・長官、副官補佐のみが副官の正体を知る
・悪夢の国試で官吏にはなっていないと言われていた二人目の状元が、実は当初から御史台に属しており、昇格したのではとのこと
・正体は女人であることを隠し男装して働いていた監察御史
・御史台の一員として通常業務の者たちに紛れ働く
「真偽はいずれも不明、全ての真実は長官のみが知っているそうな…って冗談じゃない」
書類を床にぶちまける。ひらひらと宙にいくらか紙が舞った。
「おかしいじゃん、副官なんだろ副官、普通長官の一存で決めるかよ」
バンバンと卓子を叩く、彼の話を聞くものは誰もいない。室には彼一人だ。
――副官に就任した者など、はじめから存在しない。存在しない人間を知っている者がいるわけもない。
彼の仕事は、その存在しない人間の補佐である。
△Menu ▼
bkm