心は藍よりも深く 32
彼は、千里山脈付近の秋から冬にかけての物流経路を調べていたらしい。閉鎖的な村々が多いなか、いくらかの村で今年は街にまで山の幸を売り出しに行くことがあったという。それは雪が降り出し人が山にはいれなくなるギリギリまでされており、その山菜、木の実、その他果実が摘まれ拾われた場所は今年のユキギツネの活動区域と重なっていた。


「そりゃ山脈近くの村じゃ特に、食糧少ない時期にその辺で拾った木の実食うなっつーのも無茶な話だけどよぅ」


加熱され食されることのない木の実や果実に、ユキギツネのもつ『何か』が落とされていたなら、感染の原因になるのもあり得ない話ではない。


「だから山脈と離れた一部の村でも発病報告きてるわけだ」

「えっ?!」


影月が驚きの声を上げ、険しい顔をする。


「知らなかったか? 因みに虎林郡に発病者受け入れ頼もうとか俺は考えちゃってるんだけど」

「はっ?!」


今度は丙太守が驚きの声を上げた。


「治療がもし受けられるとして、中心地はここか石榮村あたりだろ、どっちにしろあの辺に散ってるのは後々面倒だろうから」


よろしく〜、とその手続きの大変さを知ってか知らねでか丙太守をによによと貘馬木はみていた。


「あと各村で共通の怪しい奴目撃情報もあって、多分水以外の理由での感染での主な原因こいつだわ」


どういう手口で揃えたのかは謎だが、そのまま口にすれば確実に感染する木の実、山菜を用意して(貘馬木は千里山脈付近のため池や川、井戸の水で洗うなりしたのではないかと憶測した)、それをあたりの村にばら撒く、そんな行為。
話をきいた影月、丙太守の表情は一層険しくなる。


「とはいえ、主な原因が水で村人がほぼ発病している村も少なくない、そんな奴らに限って“邪仙教”の言う話や噂を信じて入信してるみたいだ」

「噂……?」

「紅秀麗――女が州牧になったから、仙の怒りを買い病がおこったのだとかいう話だ」


そして、病の収束のためには彼女を生贄に捧げろと。


「その話は私もきいていました、紅州牧がいらっしゃっていたら大変なことになっていたはずです。浪州尹に文を出しておいたので、ここまでいらっしゃることはないでしょうが――」

「……“邪仙教”のいる山に一番近いのは」

「石榮村だな。奇病報告も一番にきていた」

「――すぐに石榮村に出立します」


影月は即座に立ち上がった。


「治療法は、僕には分かりません、でも、絶対にあります。王都から、必ず到着します。そのときまで最善を尽くすのが僕の役目です」

「杜州牧…」

「どうか、僕に力を貸してください」


つよい意志のこもった眼差しに、丙太守が頷くように睫毛を伏せた。

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空中三回転半宙返り土下座
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