洋眉路村を出た貘馬木は、今まで分かったことを頭の中で整理しながら飛馳を駆けさせた。陽が落ちかけ、辺りが暗くなり道がほとんど見えないのも構わない。
(暗闇になり切る前に行けるとこまで行ってないと…)
「……げ」
松明の明かりが道先で揺れている。ここらをうろついていることから多分山賊だろう。
「戦闘は専門外だっつうの」
それから、ぎゅっと今まで以上の力で手綱を握り締め、一つ声をかけた。
「飛馳、奔れ」
飛馳が嬉しそうにいななきをあげたと思うと、――加速した。
鐙がなければ落ちていただろう。息も止まる勢いで障害を突っ切る。かなり場所が離れたことを確認し、手綱を引いて一度止まらせた。貘馬木は生きも絶え絶え、ひゅうひゅうと細い呼吸を苦しそうにしているが、飛馳は平気も平気、寧ろ上機嫌の様子だった。
「き、休憩…今日はここで野宿…っ」
貘馬木はヘロヘロと馬から降りて木に飛馳をくくりつけたあと、糸がきれたようにばったりと草むらに倒れた。
貘馬木は寒さに目を覚ました。
「し、死ぬところだった」
酸欠的な意味でも、凍死的な意味でも。雪が降っていたら本当に命が危なかった。あたりはまだ暗い、時間は分からない。火をおこし取り敢えず温まり、道に現れた山賊について考える。
(人通りもない道で活動…してるわけないよな)
と、なると、山賊ではないのか。こちらを襲おうとしていたのは事実だ。実際、剣は幾らか向けられていたのを飛ぶように変わる視界の中で確認した。しかし、こちらにたいして大きな荷物がないことをみても追いかけてこようとしていたのは――
(……俺のここのところの動きをよく思わない奴らがいる、か)
十中八九“邪仙教”と関わりあるに違いない。
“邪仙教”、各村を巡ったところで最近奇病に女州牧を関連付けて言い出したことくらいしか知ることができず、彼らの出どころなどはさっぱりだった。しかも――
「『我々の中には誰一人として発病した者はおりません』、ねぇ…」
それは奇病が流行ることを予測した上で、奇病の完璧な予防策を知っていた、ということだろう。そんなことが分かる奴らなど、限られているにきまっている。
「……面倒くせェ」
貘馬木は大の字に地面に寝転がった。
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