心は藍よりも深く 28
「その話を信じてその煮沸とかいうのを村の奴らは大抵してたぞ。ちなみにその後、旅人は石榮村に向かうと言っていた」

「ふうん。じゃあもう一つ、木の実や山菜を大きな引き車にのせてきた奴はいたか?」

「…………他の村にもそいつらは行ったのか?」

「というと、この村にもきたのか」


参三はそれに頷いた。


「ああ、秋の終わり頃、だったか。男が一人、村に一晩泊めてくれと来た。怪しいいでたちだったが、礼に引き車にのせた食糧を幾らかくれるというから、哥喃のうちが喜んで引き受けたよ。……やっぱり怪しい奴だったのか」

「さあ、まだ分からないが黒に限りなく近い黒だと思ってる」

「黒じゃねーか」


そうか、と参三は頭を抱えた。


「でも木の実も山菜も、その気になりゃ山まで採りにいけるものだったんだぜ? 今から冬だってんでまぁ若いやつらは摘みにいってたしな」

「ふむふむ」

「あと今年は村から木の実や山果実を売りにいく奴も多かった」


秋が短かった分珍しく高く売れたらしいぜと参三は言った。


「で、これが奇病と何の関係があるんだ?」

「ん? 知りたい?」

「おう」


貘馬木はそうだな、と顎に手をやり言った。


「旅人の話は奇病予防に貢献したということさ」

「……話の繋がりが全く分からん」

「それだからお前はその歳になっても州試に受からないんだ」


参三は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「……余計なお世話だっての」








「こいつぁあん時のベコじゃないかぇ」


老婆は木につながれている馬に近付き、カッと片目を見開いた。


「馬です」


馬――飛馳が不機嫌そうにいなないた。


「そうじゃったか、そりゃ悪かったのーベコ」

「……」


貘馬木は訂正するのを諦めた。


「やぁ〜、あんときも主人はぎっくり腰じゃったの」

「もしかして長老の奥様ですか」

「おお、そうじゃ。しかし若い衆叱るのに大声だしてぎっくり腰とは、昔から肝心な時にあやつはまぬけじゃ」

「それはそれは…」

「全て虫のせいじゃと言っておった」


(おお、参三より遥かに頭が回るじゃないか。流石長老)


「奇病も、村人が気を立てるのも、阿呆どもが変な奴らにほいほいついて行くのも、ぎっくり腰になったのも、箪笥に足の小指をぶつけるのも、全て虫のせいじゃと」

「……」


きかなかったことにした。

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空中三回転半宙返り土下座
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