「その話を信じてその煮沸とかいうのを村の奴らは大抵してたぞ。ちなみにその後、旅人は石榮村に向かうと言っていた」
「ふうん。じゃあもう一つ、木の実や山菜を大きな引き車にのせてきた奴はいたか?」
「…………他の村にもそいつらは行ったのか?」
「というと、この村にもきたのか」
参三はそれに頷いた。
「ああ、秋の終わり頃、だったか。男が一人、村に一晩泊めてくれと来た。怪しいいでたちだったが、礼に引き車にのせた食糧を幾らかくれるというから、哥喃のうちが喜んで引き受けたよ。……やっぱり怪しい奴だったのか」
「さあ、まだ分からないが黒に限りなく近い黒だと思ってる」
「黒じゃねーか」
そうか、と参三は頭を抱えた。
「でも木の実も山菜も、その気になりゃ山まで採りにいけるものだったんだぜ? 今から冬だってんでまぁ若いやつらは摘みにいってたしな」
「ふむふむ」
「あと今年は村から木の実や山果実を売りにいく奴も多かった」
秋が短かった分珍しく高く売れたらしいぜと参三は言った。
「で、これが奇病と何の関係があるんだ?」
「ん? 知りたい?」
「おう」
貘馬木はそうだな、と顎に手をやり言った。
「旅人の話は奇病予防に貢献したということさ」
「……話の繋がりが全く分からん」
「それだからお前はその歳になっても州試に受からないんだ」
参三は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……余計なお世話だっての」
「こいつぁあん時のベコじゃないかぇ」
老婆は木につながれている馬に近付き、カッと片目を見開いた。
「馬です」
馬――飛馳が不機嫌そうにいなないた。
「そうじゃったか、そりゃ悪かったのーベコ」
「……」
貘馬木は訂正するのを諦めた。
「やぁ〜、あんときも主人はぎっくり腰じゃったの」
「もしかして長老の奥様ですか」
「おお、そうじゃ。しかし若い衆叱るのに大声だしてぎっくり腰とは、昔から肝心な時にあやつはまぬけじゃ」
「それはそれは…」
「全て虫のせいじゃと言っておった」
(おお、参三より遥かに頭が回るじゃないか。流石長老)
「奇病も、村人が気を立てるのも、阿呆どもが変な奴らにほいほいついて行くのも、ぎっくり腰になったのも、箪笥に足の小指をぶつけるのも、全て虫のせいじゃと」
「……」
きかなかったことにした。
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