村人達は村の外から来たであろう人物に不審の視線を向ける。家にいた男手も外に出てきては貘馬木をずらりと囲んだ。貘馬木は一人の村人の顔をみては馬からおり、にこやかに笑って手をあげた。
「よーす、久しぶりじゃぁん参三」
「は? 誰…って、お前貘馬木か?!」
貘馬木の顔をみたその男はあからさまに嫌そうな顔をした。その男の反応に苦笑いする。全く俺は人から好かれないタチらしい。こんなにも素敵な人間をどうして邪険にするのか、全く理解し難い
「奇病が発病したってきいたから、琥漣から駆けてきたってのに」
やれやれ、と肩を竦めて貘馬木は言った。その言葉に男と村人達の表情が変わる。
「まさか治療法が――」
「それは医師団待ってもらわないと」
「あるのか!?」
「今に例の新任州牧さんが貴陽から連れてくるさ」
実際のところどんな状況か貘馬木は全く把握していないまま琥漣を出てきたので分かりようもないのだが、口先三寸、彼は嘘を吐くことに抵抗はなかった。いや、その嘘さえ今後本当になるであろうことを確信していた。それは長年の経験と勘からだ
「俺がこの村にきたのは、事実確認のためだ。他の村々も回って話をきいている」
「参三、そいつは信じられるんだろうな?」
「変人だが悪いやつじゃない」
村の中でも有名人で信頼のおける人物と知り合いだったということもあり、村人達がはりつめていた気を緩め、話はお前らだけでやれとでもいう風にぞろぞろと元の場所に戻る。
貘馬木は側の木に馬のひもをくくりつけて、近くの丸太に座った。参三が、村のことを話し始める。
「村はまあこんな様子で、外の奴らに気を張ってる。何人かは“邪仙教”とかいう集団に入るとかで山にいっちまった。腹が腫れる奇病は、知っているんだろう」
「まあな。ところでこの村の長老がみえなかったが」
「……長老は」
顔色を暗くする参三に、地雷だったかと焦る貘馬木に、彼は重い声で告げた。
「ぎっくり腰だ」
「びっくりさせんじゃねえよ奇病で死んだのかと焦ったろうが」
「ぎっくり腰舐めるなよ!? この間初めてなったが超痛いんだぞあれ!」
「お前も歳だな」
けけけと笑い声あげた貘馬木を参三はお前が言うかと笑った。
「お前もな、顔が老けてやがる」
「うっせ。まあそれはいいや。じゃ、次質問。夏頃に、各村に告げ回られた『村に訪れた旅人の話』をはじめに受けた…つまり旅人が実際に訪れたのはこの村だな?」
「ああ。食べたら死ぬ虫が水に潜んでいるからシャラップするようにという話だった」
「煮沸な」
黙ってどうする。実際水をそのまま飲んで返事をしない屍になるのだから洒落にならない。
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