心は藍よりも深く 15
今もなお悠舜が笑顔の理由が分からずにいるらしい、考え顔の秀麗をみながら櫂兎は帰路につく。流石に悠舜が用事終え帰るときまでべったりというわけにはいかなさそうだったので、秀麗と行動を共にしていたのだ。


邸まで櫂兎が秀麗を送りにくる。到着し、秀麗はぺこりと頭をさげた


「ありがとうございます、わざわざ送っていただいて」

「いやいや、女の子を一人で歩かせる時間じゃないからね」


日が短い季節なだけはあり、朝廷を出たときはまだ明るかったのに今はすっかり日が暮れてしまっていた。櫂兎は身を震わせた。


「明日も冷え込みそうだね、雪が降るかもしれない」


風邪をひかないようにね、と櫂兎は手をひらひらと振った。









吏部では奇蹟が起き、朝日をその目で拝んでいる頃。朝早くから櫂兎は上機嫌で落ち葉に火をつけ、焼き芋の準備に取り掛かっていた。朝廷で出た書類などの書き損じの紙をいくらか貰ってきていた櫂兎は、それで芋を丁寧に一つずつ包む。


「アルミホイル…は、ないよなぁ」


まあいいか、とそのまま火に投入した。鼻歌を歌い芋をつつきながら、櫂兎は出来上がりを待った。








ほっこり焼けた芋を自作の紙袋にいれ、櫂兎は登城する。いつもながら彼の朝は早い。今日も変わらず、早めの出勤だ。…行った先で仕事はないが。


途中、池で何かのたがが外れてしまったかのようにケタケタと笑いながら池の鯉に餌をやっている者を発見し、固まる。見覚えのある官吏だ、確か吏部でも何度か仕事を一緒にした彼、名前は忘れた。顔色が真っ青だ、目の前で手を振るが反応しない。頬を触り手を握ればかなり冷たい。まるで、外で鯉に餌やり一夜を明したみたいではないか。このままでは身体に悪いだろうと、襟首を掴む。どこか温まる場所へいけたらいいのだが


「……お」


池の鯉に餌をやっていた官吏を引きずりながら、吏部のほうに足を運んだ櫂兎は窓からこっそり中を覗き込んでみた。いつも書類で足場のない吏部から、書類の山が消え、変わりに力尽き放心している官吏たちが床に転がっていた。


「死屍累々…」


一応、死んではいない。


中に入りこみ、勝手に部屋の隅にあった七輪(秋に誰かが秋刀魚を焼くためだけに持って来て放置されていたものだ)を引っ張り出せば、中の炭はまだ使えそうな様子だった。周りの目を一応気にしつつ、焼き芋を包んでいた紙をいくらか破り、ライターで火をつけ、移す。七輪の前に名の忘れた官吏を引っ張ってきて暖がとれるようにする。窓を開けるのも忘れない。


ふと目線を自分がかつて使っていた机のほうへ向ければ、一仕事終えたとでもいう風にくたびれた楊修が突っ伏していた。


「お疲れさん」


ぽふ、とその肩を軽く叩き、側に焼き芋をひとつ置いた。

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空中三回転半宙返り土下座
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