「櫂兎は…あー、アレですね、貴方をよく知らない人には印象に残りにくいんじゃないでしょうか?」
「俺を知ってる奴らには、俺は存在感あるの?」
「もちろんです、それも強烈なのが」
少なくとも悠舜にとって櫂兎は影が薄いなんてあり得ない。むしろ衝撃ばかり与えられる強印象派だ。それはもう、いい迷惑なくらい。
「しかしどうしたんです、急にそんなこと気にして。あ、目立ってみたくなりました?」
「それはない」
櫂兎はきっぱり言った。
「今日の仕事は終わり? 何ならうち寄っていかね?」
櫂兎の問いに悠舜は首を横に振る。
「まだ用事が終わってないんですよ。言伝てがありまして、私に会いたいという方がこちらに来てくださるらしくて、一度こちらに戻ってきたんです」
その後は黒州の櫂州牧と会う予定だ、とてもじゃないが彼の邸を訪れる余裕がない。
「そっかー」
口をへの字にした櫂兎に、一体彼の邸で何があるのかと首を傾げたところで、彼らに明るい声が掛かった。
「悠舜さん!」
「え? ああ、秀麗殿。私に会いたいと言付けをなさったのはあなたでしたか」
はじかれたように悠舜は秀麗をみた。櫂兎がひょこりと手を挙げる
「や、秀麗ちゃん」
「櫂兎さんもこちらにいらっしゃったんですね」
にこりと笑う秀麗を前に、悠舜は少し妙な動きをした。
なぜか手にしていた包みと秀麗を見比べ、納得したかのように何度か頷いたのである。
「……悠舜さん? その包みがどうかしたんですか?」
その途端悠舜は何とも言えない顔をした。悠舜にしては何とも珍しい、苦笑半分、呆れ半分の笑顔である。悠舜のその表情の理由が分かる櫂兎も同じような顔をする。二人の表情に秀麗が首を捻る。ちなみに、秀麗に見つからないようにちゃっかりついてきたらしい黎深が、こちらを物陰からじっと見つめていることに櫂兎は気付き、また変な顔をした。
悠舜はついと手にした包みを秀麗に差し出した。
「……預かりものなのです。とある人からあなたへの贈り物だそうですよ」
「え? 私にですか? 誰からです?」
悠舜は考え込んだあと言った。
「おかしな人ですが、あやしい人ではありません。受け取って差し上げてください。よく状況は分かりませんが、『こっちのほうがずっと美味しい』だそうです」
「は?」
受け取った包みの中身がみかんであることに首を傾げる秀麗。そうなるのも仕方ない、と櫂兎は少し同情した。
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