「何故大切かは――」
「そりゃ、紫劉輝陛下様々だもん」
「ただの忠誠心だけには思えませんが」
ただの一官吏と王の関係ではないだろう、と言いたいのだろう。全くもってその通りである。昔々のそれなりに昔、筆頭女官をしていたときから愛で育てた可愛い可愛い劉輝なのだ、俺のは一種の親バカかもしれない。
「実は櫂兎が第一公子の線を考えまして」
「それは無い」
いつの客人の噂だよ、と櫂兎は思った。あの先王の友人ではあっても隠し子になる気はさらさらない。
「実はそうだったとしても櫂兎だったなら、驚きますけど驚きません」
「どっちだよ」
「……驚きます」
チッ、と非常に不本意なように悔しそうに悠舜は言った。待て、さっき舌うちしたぞ。気にしたくないから気にしないが。
「驚かなくていい、正真正銘俺は王家と何の血縁もないから」
「え、じゃあもしかして……」
今度は悠舜がただでさえ悪い顔色を更に悪くした。一体なんだというのだ。
「え、でもそんな…ええと、やっぱりいいです」
「そこまで引っ張っておいて言わないのはずるいだろ」
「でも私の口からはとても…」
そうして口を扇子で隠す悠舜の顔色は真っ青だ。
「……悠舜、変な想像してない?」
「いえ、櫂兎、私は陛下と貴方がどんなにただならぬ関係でも受け入れます、ずっと友人でいますから、安心してください」
「いやあのだからさぁ!?」
「大丈夫です、愛があれば身分も性別も関係…ありますけどなんとかなります」
「何がどうなるんだよ!」
むしろなって欲しくなかった。どうやら、劉輝の(今となっては元、だが)男色家の噂を考慮した結果そうなったらしい。
否定していれば、今度は何だつまらない、とでもいうように悠舜は口をへの字にした。
「……もしかしなくとも俺、からかわれてるのかな」
「はい」
ガクッと櫂兎は肩を落とした。悠舜はそれなりに満足そうにしている。からかい気が済んだのか。そんな櫂兎の考えを察したかのように悠舜は次の言葉を発した。
「でも、理由はきかせてもらいますよ」
「……」
櫂兎は苦い顔で、渋々とでもいうように重い口を開いた。
「彼が着任して三年目の春、府庫でお会いしたときに饅頭を一口頂いた。その代わり話し相手になってくれと言われ、たくさんの話をした。今では仕事の愚痴や恋の悩み事を話される間柄になってる」
嘘は、言っていない。これで許してもらおう。
「あぁ、櫂兎は李侍郎付きでしたものね」
要するに王の付き人の付き人、関わりがないこともないというわけだ。俺の場合補佐という表現が正しいらしいのだが、そんなこと知らなかったうちに冗官処分だし、みんな付き人呼ばわりだった。
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bkm