「ぐふっ」
勢い余って床に倒れこむ。頭を打つことは何とか避けたが、飛び掛かってきた人物も上に乗っているため櫂兎は重さに苦しそうな声をあげる。
「ちょっと龍蓮! 何してるのよ!」
噂をすれば影。飛び掛かった龍蓮はこうするつもりではなかったらしく、少し考えた風にしたあと口を開く。
「我が心の片割れよ、元気だったか」
どうやら先ほどの考えの結果はこのままでいいという判断だったらしい。全くもってよくない。
「龍蓮、先ずは退こうか。この姿勢は話しづらいぞ」
「なるほど」
何がどう成る程なのやら、龍蓮は深妙な顔付きで上をのいた。櫂兎も立ち上がり背中や肘をはたく。
「手を握る強さも抱きしめる力加減もうまくなったけど、抱きつきは助走が勢いありすぎるな…」
秀麗は今のが抱きつき?! と頬をひきつらせた。どうみても特攻、体当たりにしか見えなかったのだ。
(なんというか、さすが櫂兎さんとしか思えないわ…)
「今この再会の喜びの調べを…」
秀麗は跳ね上がり必死に首と手を横に振った。しかし櫂兎の言葉は龍蓮の演奏を喜ぶものだった。
「お、嬉しい限り」
絶望的とでもいう表情で諦めがかった秀麗といざ吹かんと力む龍蓮に櫂兎は待ったをかける。
「でも、その前にお客さん、なんじゃないかなぁ」
櫂兎のその言葉と同時に、邸の外――おそらく門付近――から悲鳴らしきものが聞こえてきた。
三人で向かうと、その悲鳴の主は知人たちの顔に反応し、文字通り転がり込んできた。
「助けてくださいいぃぃぃ〜なんだか偉い人たちから続々と文がきて△※#*×!!」
茶家当主、茶克洵はそうして秀麗に泣きつき、彼もここに滞在することが決まった。珍・駆け込み寺は大盛況のようだった。
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bkm