克洵を、とりあえずまずは落ち着かせようと秀麗がお茶を用意しに庖厨所へ消える。
「あの、初めまして…ですよね」
克洵の視線の先が自分だったことに櫂兎は少し驚く。
「…え、あ、一応そう、かな」
茶州でうたた寝中の彼に出会ったのや街で遠目に見たのは数えなくていいだろう。
「わが心の片割れだ」
「龍蓮さんの!! わあ! あ、申し遅れました、茶克洵です」
ぺこりと頭を下げられ櫂兎はあわてた。いやいや、茶家ご当主様腰低すぎるよ、と内心思いつつ櫂兎も礼をする。
「そんな大層なモノじゃないんだけどな…」
頬をかきつつ、姿勢を正し薔薇姫に教えられた作法を思い出しながら名乗る。
「棚夏櫂兎と申します」
流れるような動作にぽかんと見とれていた克洵は、それから何かに気づいたように「あ、」と声を発した。
「もしかして、鴛洵大叔父様のご友人の…」
何 故 分 か っ た 。
櫂兎は心の中で盛大に突っ込んだ。
どうやら州試のとき滞在時に俺のことをおぼえていた家人がいたらしく、その人経由で櫂兎の話を聞いたらしい。州試か、今となっては懐かしい。
「でも凄いです、州試でいちぅいもごもご」
「重要なのは順位じゃないぞー」
焦るように克洵の口を櫂兎がおさえた。
茶を持ってきた秀麗が、それをみて不思議そうな顔をしながら卓に茶を置く。
櫂兎の手から解放された克洵は茶を口にし、暫くしたあと縋るような目で秀麗をみた。
「あの、秀麗さん、貴陽にいる間、僕をここに置いては貰えないでしょうか。別邸はあまりにも…その、」
「そ、それは…」
何となく流れは察していたが、やはりそうなるかと秀麗は頬を引きつらせる。
「我が心の友その一、今更一人も二人も同じことだ」
滞在者がそれを言うか、と秀麗は軽くめまいをおぼえながら、父にきいてみる旨を伝えた。きっと父のことだ、快く承諾するに違いない。いつからうちは珍人宿舎になってしまったのかと秀麗は溜息をついた。
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