貘馬木は貴陽から茶州に戻った時、過去にあった奇病難病について徹底的に調べるために仕事を手伝うと言い出し、影月らの前に出てきた。
茶州の仕事を手伝う合間に、影月らには気付かれる事なく資料は揃え、山間部を中心に、発症した時期を照らし合わせ、櫂兎が言った『奇病』がどれかある程度の目星はつけた。
何気に面倒くさく、あの時もっと詳しくきいておけばよかったと後悔したのは余談である。
西華村もその被害にあったのは調べ済み、そこで生き残ったのが影月であることも分かっている。医療知識のある彼のことだ、そこらの医者よりこの事態には詳しいはず。
(……歯痒い、よなぁ)
彼のいう堂主の正体も十中八九察しがついている。なら――
「治療法はある、必ず」
そういうことなんだろう、と、遠く離れた貴陽にいるであろう心配屋の元部下を思い浮かべた。
貴陽――配下からもたらされた報せに、彼は覚えず笑む。まとう衣は、明けの縹色。
拍子に、肩口から月光色の髪が一房、すべり落ちる。
「まったく、運命、としか言いようがありませんね……」
彼は何もしない。何もせずとも、事が起こることを知っている。だからこそ運命なのだ。
「茶州、虎林郡の東に、早い冬が訪れた……」
いま再び、杜影月は、かつて味わった絶望とともに。
そこで、配下から別の報せが舞い込んでくる。彼は、その内容をきき至極楽しそうに口元を緩ませた。
「運命か、それとも偶然か」
事が起こることを知っているからこそ、動いた者がいたらしい。それはどのような結果をもたらすか――
何をせずとも『捜しもの』の二つのうち一つは、近いうちにこの掌に落ちてくるだろう。
何にせよ、ただ『そのとき』を待つだけだ。
邵可邸を訪れていた櫂兎は、邸に秀麗の姿があることに安堵した風に微笑む。予め知っているとはいえ、その通りになったかどうかは確かめなければわからない。そして今回も記憶通り、工部での飲み比べは無事秀麗が勝利をおさめたらしいことにホッと息をつく。
「おめでとう、無事工部尚書に話を取り付けられたみたいだね」
「櫂兎さん! あの、見取り図ありがとうございました」
「あ、あれ役に立っちゃった?」
その言葉に、強行突破で窓からのぼり入ったことを気付かれたと秀麗は顔を赤くした。おしとやかさの欠片もないのがばればれだ。
「あらゆる限りで取れる手段をとる、それでいいんだよ」
秀麗の心の内を見透かしたかのように櫂兎はフォローした。それからきょろきょろとあたりに目線をさまよわせ、小首をかしげる
「もしかして、ここに龍蓮きていたりする?」
「なっ、何でわかったんですかぁッ!?」
彼は前回の滞在でここがいたく気に入ったらしく、現在さらに新しい魅力を求め勝手に探索中だ。今頃庭の奥にでもいるのではないだろうか
「貴陽にある別邸は風流じゃないだとかなんとかいって」
「だろうね」
くすくす笑っていた櫂兎の横から、駆け寄って飛び掛かる影があった。
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bkm