欠けゆく白銀の砂時計 25
秘密、と答えられた劉輝は戸惑った。秘密にしなければならないほどのことが、この饅頭一つにあるのだろうか。櫂兎はその一言を最後に、いくら問いただそうとしても口を開きもしない。

結果、劉輝は根負けした。時間的に、そろそろ執務室に戻らなければならなかったのだ。更に問うことはできそうもない。次の機会は逃すものかと密かに拳をつくった。

最後に饅頭を口に放り込む。甘い。この饅頭なら知っているだろうか、彼の秘密という内容を。
味わい咀嚼するが、秘密について想像もつかない。どうやら饅頭は教えてくれないらしかった


その後のことで、劉輝の中からさっぱりその秘密についてや疑問の話は消えてしまった。全てが済んだあとで何故その疑問をそのままにしていたのか後悔することになるのだが、今はまだ知る由も無い。
そう、執務室に戻ってから程なくして、劉輝のもとに工部尚書相手に、秀麗が飲み比べをしているとの報せが舞い込んだのだった。








劉輝が府庫を去った後、櫂兎は正直に話せることが少ないなと苦笑いした。多分何も気にせず囚われず語れることなんて、妹への愛だけだ。


ちなみに風呂は後宮で珠翠に上手いことしてもらっている。……饅頭もそういうことにしてもらおうか、さらに聞かれるようなことがあればそうしよう。


自己完結したところで読書に耽る。その日が秀麗の工部特攻成功日だと数え気付いたのは、日も暮れて辺りも暗くなった頃、卓子の上に蝋燭の灯りを灯したときだった。


通りで工部がまだ明かりの灯っているわけだ。普段なら仕事終わる時間でも、今日は飲み比べで騒がしくしているのだろう。
欠伸をかみころしたとき、府庫に入ってくる者たちに気付く。


櫂兎は訪れた面子を、至極楽しそうにみた。








どうやら旦那様の紹介したい知人、というのはもう一人いるらしい。同期らしく、今日戸部で出会った奇人に負けず劣らず個性的に違いないと見当つけた凛は、その知人が今泊まり込んでいるらしい府庫に向かった。


府庫の入口に立ったとき、府庫内を見渡す。卓子の上に蝋燭の炎が揺れており、人がいるのが確認できたが暗くてよくは見えない。


「こんばんは」


何処かできいたことのある声がした。隣で悠舜が顔をほころばせたのが分かった。この人影が知人のようだ


「やあ、この間振りだね、櫂兎」


櫂兎…? 聞き間違えでなければそれは――


暗かった部屋に、灯りが灯る。どうやら蝋燭の火を壁付近にある燭台にいくらか移したらしい。明るくなった部屋で、よく見えるようになった人影は、自分もよく知る人物だった。


「櫂兎君?!」

「はは、凛さんもこの間振り」


その言葉に悠舜の目は点になった。一人状況を楽しんでいるのかのように、櫂兎は微笑んだ。

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空中三回転半宙返り土下座
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