「今日も邵可はいないのか」
府庫に訪れた劉輝は、府庫内をみるなりそう言った。
「しばらくは登城しないそうで。まぁちょっとしたことなら私が代理をしますけれど」
「いや、代理はいい。櫂兎がいいのだ、話し相手をして欲しい」
「お饅頭一口で、なかなか人使い荒いですよね陛下」
そう言う櫂兎は柔らかい笑みをたたえていた。
「このところ寒いですから、外で座り込む時には霜に気をつけて下さいね、凍ってとれなくなったら洒落になりませんから」
「…? よく分からないが分かったのだ」
「甘い饅頭も、たまにはいいな」
「でしょうでしょう?」
ニコニコとしている櫂兎をみて、ふと劉輝は疑問が浮かんだ。
「…これは手作りか?」
「お饅頭ですか? はい、そうですが、どうかしましたか?」
何故そんなことをきくのだろう、と不思議そうな顔をする櫂兎に、劉輝は更に疑問をぶつける。
「最近府庫に泊まり込んでいる…んだよな?」
「ええ、そうですね」
「泊まり込んでからは一度も邸に帰っていない、か?」
「はい」
劉輝は、訝しげな顔になった。何かまずいことでも言ってしまったのだろうかと櫂兎は考えを巡らせるが、分からない。
「――櫂兎」
「…はい」
真剣な顔に一体なんなのだろうかと頬をひくつかさせれば、開口。
「この饅頭、何処で作った?」
その言葉でようやく、彼の考えていたことに合点のいった櫂兎は、見事な思考回路に舌を巻いた。
王宮の庖丁厨では、俺が入って勝手に何作ろうがどの材料を勝手に使おうが問題ない、先王からの許可があるのだ。それを知ってか知らねでか、俺が忍び込んでいても、ベテランさんや働き長い人には慣れた風で黙認されている。元々人も多く、一人くらい部外者が堂々紛れ込んでも気付く人は少ない。
(でもその先王からの許可を大っぴらにするのも、平の一官吏が忍び込んで庖丁厨使っていることもバレるのはよくない、気がする)
ちょっとした湯を沸かすくらいの設備なら府庫にもあるが、ここに餡子持ち込んで粉まみれになって作っただなんて話は通らないだろう。
(さて、どうするか)
櫂兎は悩みに悩んで、それから人差し指をたてると口元に当てた。
「秘密です」
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