「企むとか、そんなのじゃないんだけど」
「ほう?」
「どうにもみているだけは、俺が耐えられそうになかったから」
説明らしくない説明をして、その場はお開きになった。また、朝廷で疫病の話題あがればなぜ知っていたのかを問われるんだろうが、今は何もかも考えることすら放棄してしまいたかった。
「……言い訳も面倒だけど、本当のこともいいたくないんだよな」
この世界は俺にとっては娯楽小説のうちの一冊です、だなんて。
ここで確かに生きている、息づいている人々をみていたのに、俺にとっては知っている通りに進むだけの御伽噺、だなんて。
どうしようもなく、それを認めたくないのと同時に、そう考えている自分に嫌気がさした。
「……偽予言の書でも作ろうか」
『さいうんこくげんさく』と書いてある内容はそう違わない。秀麗ちゃんに関する内容中心だったのをこの彩雲国という大きな視点でに書き換えるだけ、だ。これを読んだから知っていたなんてことにすれば言い訳できる。
黙々と制作を開始し、数日後には完成した。ガッツポーズをした俺だったが、タイトルにばっちり『偽予言の書』と書いてしまっていた。
「実行時に至って『偽』かよ!」
自分自身に突っ込んだ上に、筆跡が完全に自分のもので自分で書いたことバレバレだった。何それ泣きたい。俺は涙目でそれを屑籠に捨てた。ああ、数日間の俺、無駄な労力乙。
刻々と時だけが過ぎ、未だ秀麗は工部尚書にも侍郎にも会うことさえ出来ないでいた。
「……つまりは私自身がダメだしされているわけよね」
秀麗は袖から小さく折りたたんだ半紙を取り出し、丁寧に広げた。櫂兎から、悠舜を通して受け取ったものだ。
「……ここが工部尚書の執政室ね」
見取り図と現物を照らし合わせる。櫂兎本人がかいたらしい見取り図は正確かつ分かりやすかった。
「正攻法が駄目なら……ねぇ」
要するに、正攻法でない方法をとればいい、何も反則である必要もない。
美酒はまんまととられて門前払い、使えない。
彼に渡された紙と、残りの手を考えればすることは一目瞭然だ。
要するに、
「強行突破しかないわね!」
秀麗はぐいと袖を捲り上げた。
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bkm